小林製薬“猛毒サフリ”、76人死亡ても事件化に立ちはだかる「2つの壁」とは

「今になって何を言い始めてるんだと」
6月28日、武見敬三厚労相(72)が、怒りの矛先を向けたのは、「紅麹」問題で、新たに76件の死亡の疑いを報告した小林製薬である
◆◆◆
突然増えた死亡者数
社会部記者が解説する。
「今年3月に発覚した小林製薬の『紅麹』問題では、同社が製造した紅麹を原料とするサプリメントを摂取した消費者が、腎疾患などを発症。当初は、5名が死亡した疑いがあるとされていたが、その数が突然、76名に増えたのです」
死亡者数が突如増えたのはなぜか。改めて厚労省健康・生活衛生局に聞くと、
「死亡者数の更新がないため、確認をしたにも関わらず、小林製薬の判断により死亡者数の報告をしなかったことは極めて遺憾です」
と小林製薬を断罪する。
「今後、厚労省は、業務上過失致死傷罪で事件化する可能性もあることから、調査の進捗を管理する方針です」(前出・社会部記者)
業務上過失致死傷罪は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金が科される重罪である。
2000年に起こった雪印乳業(現雪印メグミルク)の集団食中毒事件では、発生当時の社長や工場長が業務上過失致死傷罪などに問われた。社長と専務は不起訴で、工場長ら現場責任者だけが有罪となった。
小林製薬、事件化には2つの壁
だが小林製薬の場合、事件化には2つの壁が立ちはだかるという。まずは、「予見」の壁だ。刑法が専門の園田寿甲南大名誉教授が解説する。
「刑事である業務上過失致死傷罪の適用は、事件を具体的に予見できたかどうかが問題となります。本件はカビが製品に紛れ込んだことによって発生したものとされます。その場合、経営陣や現場の工場長にそれが予見できていた、といえるかは非常に難しい」
ポイントは3月22日の社長会見にあると指摘するのは企業問題に詳しい加藤博太郎弁護士だ。
「雪印の事件では、社長と専務は『予見不可能だった』として不起訴となりました。小林製薬も会見で『未知の成分』という言葉を使っており、健康被害が起こるとは予見ができなかったという点を主張しようとしているのではないか」
2つ目の壁は、死亡疑いの数すらまともに報告しない小林製薬の「隠蔽体質」である。
07年、表示義務のある原料名を表記せずに栄養補助食品を販売していたことが発覚。小林製薬は客からの苦情が出ても調査すらせず放置していたという。発売から5年半ほど経ってから回収に動き、「原因が分からず、対応が遅れていた」と釈明したこともある。
同社の元社員が証言する。
「Kさん(小林一雅代表取締役会長の愛称)が、恐ろしいから、クレームでもなんでも最初は隠してしまうところがある」
“隠蔽工作”は過去にも
彼が在職中も、“隠蔽工作”が行われたことがあったという。
「1990年代のことですが、当局による税務調査が入ることになった際に、当時の経理部長が、『まだ許可を得ていないものを輸入していたことが分かる書類がある。バレたらまずい』と本社の女性更衣室に隠したこともあった。今回の一件も、『都合が悪いことは黙っておけ』という会社の姿勢の表れではないか」(同前)
小林製薬に、死亡者数や過去の税務調査時の“隠蔽疑惑”などについて質問したところこう回答があった。
「6月13日に厚労省には、報告すべき事案はございませんと回答いたしました。その後、報告・公表のあり方の見直しを加速させ、報告に至りました。(過去の税務調査については)回答を差し控えます」
包み隠さず事実関係を明らかにする姿勢が、あったらよかったのだが。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年7月11日号)

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする