<独自>医療事故で脳神経外科医2人を書類送検 赤穂市民病院、業過致傷疑い

赤穂市民病院(兵庫県赤穂市)脳神経外科に在籍していた40代男性医師=大阪府=が関わった手術で、令和元年9月ごろから8件の医療事故が相次いだ問題があり、兵庫県警捜査1課などは22日、業務上過失致傷の疑いでこの男性医師を書類送検した。捜査関係者への取材で分かった。
書類送検容疑は2年1月、腰痛を訴えていた同県内の70代女性患者に対し、腰椎(ようつい)の神経圧迫をなくすため、ドリルで腰椎の一部を切除する手術を実施。その際に適切に止血を行わなかったなどの過失により、脊髄(せきずい)神経を覆っている硬膜を損傷させ、露出した神経を損傷、切断したとしている。女性は、両足のまひや排泄(はいせつ)障害など重度の後遺障害があるという。男性医師は3年8月、病院を依願退職した。
同課は同日、注意義務を怠ったとして、当時この男性医師の上司だった50代の上級医についても同容疑で書類送検した。
また、同課などは5月9日にも、靱帯(じんたい)が骨化する難病「後縦(こうじゅう)靱帯骨化症」を患う別の70代女性患者に対し、頸椎(けいつい)手術の際に過失により頸髄(けいずい)を損傷させたとして同容疑で2人を書類送検している。
医療事故、半年で8件 病院対応遅れで調査開始に2年
赤穂市民病院では、わずか半年の間に、書類送検された男性医師が執刀した手術で8件の医療事故が相次いだ。男性医師は6件目の事故を起こした後にようやく病院に報告。病院側も事態を把握して以降、外部機関との情報共有が遅れ、事故調査委員会の検証が始まるまでに約2年を要した。専門家は、重大な医療事故が短期間に複数件起きたのを病院が把握した時点で「直ちに厳重な監視下に置き、被害の拡大を食い止めなくてはならない」と対応の不備を指摘する。
男性医師は令和元年7月に着任。同年9月~2年2月に少なくとも8件の手術を担当、手術後に2人が死亡し6人に障害が残った。病院は外部有識者の検証を受けて、8件の手術を医療事故とし、このうち、今回の容疑となった70代の女性に対する腰椎手術を医療過誤と認定した。
同病院が医療事故発生時の対応を定めた内規「医療安全対策実施要項」では、重篤な医療事故が起きた場合、担当者は過失の有無を問わず院長、医療安全推進室に連絡した上で、24時間以内に報告書を提出するよう規定。患者の死亡や後遺症を伴う医療事故であれば、院長の指示で事故調査委員会を設置し、原因究明と再発防止策を検討するよう定めている。
だが、男性医師は2年1月、6件目となる腰椎手術後に初めて病院へ報告。病院は同3月、口頭で手術の執刀を禁じたが、医師はその後も1件の手術と複数のカテーテル検査を行ったという。
さらに、病院が一連の医療事故を赤穂市保健所に報告したのは3年12月。院長らで構成する「院内医療事故調査委員会」を設置したのは翌4年2月で、問題の把握から約2年がたっていた。
なぜこうした事態を招いたのか。
病院の担当者は「院内で検証会議を3度開き、8件のうち3件の医療事故は、外部の有識者に意見を求めていた」と説明。「医療安全の考え方が院内で浸透しておらず、ガバナンス(統治)が機能していなかった」と釈明する。
医療安全に詳しい名古屋大の長尾能雅教授(患者安全学)は「病院が手術を止めたことは適切だが、短期間で8例の事故が起きた事実は弁明のしようがない」と指摘。「当該医師からの報告が遅れたとしても、多くのスタッフや指導者は異変に気付いていたはず。どのような事情があったのか、不適切な医療をより早期に発見し、中止できる体制を構築するためにも実態の解明と共有が必要。いかなる場合であっても、患者の安全を最優先としなくてはならない」と話している。
女性患者、歩行困難に 親族「つらい思い何度も」
男性医師による腰椎手術を受けた70代の女性は手術前、自力で歩くことができ、外出も好きだったという。ところが手術後、自力で起立することも歩行することも困難となり、現在は介助を受けながら車椅子での生活を余儀なくされている。
産経新聞の取材に応じた女性の親族は、病院側から納得のいく説明がこれまでなかったといい、「事故だけではなく、病院の不誠実な対応にも心が痛んだ。どうして何度もつらい思いをしないといけないのか。(手術を受けさせたことに)一生後悔の念が消えることはない」と憤った。

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