兵庫県の斎藤元彦知事が、パワハラなどの疑惑を内部告発された問題は、今月下旬に県議会の百条委員会で証人尋問が始まり、真相解明に向けた動きが本格化する。政党や県内首長からは辞職を求める声が相次ぎ、側近3人が不在となるなど、斎藤知事への逆風は強まっている。(神戸総局 喜多河孝康、増田博一)
「この状況が通常に戻っていくことを望んでいる」
県政の混乱を招いたとして7月31日付で副知事を辞職した片山安孝氏(64)は同日、記者団にこう語り、県庁を後にした。
斎藤知事には5回、辞職を進言したが、受け入れられなかったという。この日も「県内の首長から、辞職して信を問うべきだとの話が出ている。知事はしっかり認識すべきだ」と話した。
県立大の授業料無償化など斎藤知事の肝いり政策の担当理事だった小橋浩一氏は、今月1日付で総務部付の部長級に降格した。体調を崩して休んでおり、自ら降格を申し出たという。
同日には、告発の内部調査の責任者だった井ノ本知明総務部長が、7月30日から病欠していることが明らかになった。
各党からは厳しい発言が相次ぐ。2021年知事選で斎藤知事を推薦した自民党の末松信介県連会長は7月14日の県連大会で、「知事は正しい決断をしていただきたい」と述べ、事実上、辞職を促した。
同じく推薦した日本維新の会の馬場伸幸代表は同28日、記者団に「まずは事実関係をつまびらかにすることが必要」と強調。疑惑が事実だった場合は、「しかるべき判断をするよう知事と話をする」と語った。
斎藤知事は辞職について、「職員との信頼関係を再構築し、県政を立て直すことが私の責任だ」などと述べ、繰り返し否定している。
問題は、7月に死亡した前県西播磨県民局長の男性職員が3月中旬、斎藤知事に関する7項目の疑惑を指摘した文書を一部の報道機関や県議へ送付したことから始まった。
県は同27日、男性職員を局長から解任。斎藤知事は同日の記者会見で、文書を「うそ八百」と批判した。
しかし、4月に県幹部が視察先企業から高級コーヒーメーカーなどを受け取り、告発後に返却していたことが判明した。
県の人事当局は5月7日、文書について「内容は核心的な部分が事実ではない」とする内部調査結果を公表。 誹謗 中傷に当たるなどとして、男性職員を停職3か月の懲戒処分にした。
ところが、同15日に県議が公表した独自の職員アンケート結果では、知事のパワハラを指摘する内容が複数寄せられた。
県の対応に不信感を強めた県議会は6月13日、百条委の設置議案を可決。今月23日と30日に、まずパワハラ疑惑に絞って証人尋問が行われる。職員ら10人に加え、30日には斎藤知事も出頭する予定だ。
告発7項目を全て否定
百条委では、男性職員が告発文書で指摘した7項目の疑惑を中心に検証される。
斎藤知事は6月20日の記者会見で、7項目の疑惑を全て否定した。パワハラ疑惑については「業務上必要な指導」と主張。出張先で公用車を降りて20メートル歩かされ、職員をどなり散らしたとの指摘には、「しっかり動線の確保を図るべきだったと厳しく注意したが、ハラスメントという認識はない」と説明した。
一方、男性職員は3月下旬の読売新聞の取材に、「パワハラ疑惑は全部事実で、職員の間でも有名な話だ」と主張していた。男性職員が死亡する前、百条委に向けて準備していた陳述書には、「ハラスメントは、県政の重要事項などではなく、知事個人の不満が原因となった 叱責 、罵倒。理不尽さに職員は耐えられないと思う」との記述があった。
また、男性職員が陳述書とともに用意していた音声データには、斎藤知事が2022年11月、出張先の県西部の上郡町で開かれた会合で、地元特産のワインについて「まだ飲んだことがない。折を見てお願いします」などと発言する様子が記録されていた。町によると、会合の1週間後、町職員がワイン2本を県庁へ持参したという。
斎藤知事は受領を認めた上で、「私が飲ませていただき、素晴らしさをPRするのは県の産業政策としてやるべきだ」と述べ、問題ないとの認識を示している。