抗争中の暴力団幹部と間違われて元警察官が福岡県大木町で銃撃された事件で、殺人未遂罪に問われた指定暴力団道仁会系元組員に実刑を言い渡した5日の福岡地裁判決。公判では、襲う人物を特定する同会の「調査」のずさんさや元組員が違和感を抱いたまま事件に及んだ経緯が明らかになった。
「聞いていたターゲットと全く違い、頭が真っ白になった」。今回、懲役7年(求刑・懲役9年)の判決を受けた同会系元組員の男(40)は、公判での被告人質問でこう語っていた。
判決によると、同会幹部は対立する指定暴力団九州誠道会(現・指定暴力団浪川会)副会長の殺害を考えたが、調べる過程で元警察官と副会長を誤認。2010年2月、組幹部が元警察官を大木町の自宅付近で銃撃した。男は組幹部をバイクに乗せて現場から逃走した。
「あいつや。あいつの家を調べろ」。09年、幹部は久留米市の競輪場で副会長を見つけ、こう指示。しかし、その競輪場に通っていた元警察官が、副会長と身長や体格、耳の形などが似ており、取り違えた。元警察官宅は普通の民家で、男は「本当に副会長の家なのか」と感じて組幹部に伝えたが、返答はなく、そのまま実行されたという。
公判では元警察官の供述調書が朗読され、「『殺される』と恐怖だった。原因には一切心当たりがない。犯人には長く刑務所に入り、償ってほしい」と厳罰を求めた。男は昨年12月の逮捕後、10日ほど否認や黙秘を続けたが、検事から完全な人違いだったことや、事件当日に元警察官の孫が生まれたことを知らされ、自白に転じた。「ずさんな事件に関わったことを後悔している」。法廷で声を振り絞った。
5日の判決は「あろうことか標的を誤認し、全く無関係の一般人を銃撃した」と非難する一方、「悔いて自白し、暴力団犯罪の解明に大きく貢献した」とも指摘し、量刑に考慮した。
事件当時は、06年に勃発した道仁会と九州誠道会の抗争のさなか。07年には佐賀県武雄市の病院で入院していた宮元洋さん(当時34歳)が九州誠道会関係者と間違えられて射殺された。宮元さんの妻(52)(福岡市)は今回のケースを聞き、「(人違いの事件が)他にもあったなんて」と驚く。
抗争は沈静化したものの、今年5月には道仁会と浪川会のトップがそれぞれ交代したとみられ、県警は警戒を強める。宮元さんの妻は「夫の事件が風化するくらい、平和な世の中になってほしい」と願った。