著名人かたるSNS投資詐欺、口座売却した名義人に賠償命令相次ぐ…「犯行に加担した」と認定も

著名人をかたるSNS型投資詐欺を巡り、送金先口座の名義人に賠償を命じる判決が相次いでいる。目先のカネほしさに口座を売った名義人が「詐欺に加担した」と認定されたケースもあり、不正に売買された口座が詐欺に悪用されている一端が浮かぶ。SNSでは口座の売買を呼びかける投稿が横行しており、専門家は対策が必要と訴える。(徳山喜翔)

関東地方の70歳代女性は昨年夏、株取引を無料で学べるというネット広告を見ているうちに、「村上ファンド」を率いた投資家・村上世彰氏をかたる人物とLINEでつながった。
「全力でサポートします」と投資をもちかけられ、「指示に従えば利益が得られる」と信じた。老後にためておいた資金から、指定された10口座に4500万円余りを振り込んだ。その後、連絡を取っていた相手から「税金を支払わないと取引できない」と告げられた。資金が枯渇し弁護士に相談したところ、詐欺被害に遭ったことに気づいた。
弁護士法に基づく弁護士会照会などで、口座名義人の名前や住所などの特定を進めつつ、昨年末、10口座の名義人らに計4500万円超の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴訟では、10口座のうち約40万円を送金した口座の名義人が答弁書を提出し、「生活に困って見知らぬ人に口座を売ってしまった」と明かした。不眠症やうつ病を患って生活保護を受給しているといい「詐欺に関与はしていない」と釈明した。
6月の地裁判決は、この名義人について「口座売却によって詐欺の実現を容易にした」として、女性が送金した約40万円の範囲で賠償を命じた。ほかの9口座の名義人も賠償が命じられたり、請求を認める「認諾」に至ったりした。
別の女性が起こした同種訴訟でも、東京地裁が6月、口座の名義人側に賠償を命じる判決を出した。
女性は5口座に計約1650万円を振り込んだ。このうち450万円を送金した口座は法人名義で、代表社員は裁判で「詐欺は知らない」と反論した。だが、判決は「名義を第三者に譲渡したことが推認される」と指摘。「詐欺全体を手助けした」として、別法人名義の4口座分も含めた全額の賠償義務を認定した。

銀行口座の売買や譲渡は犯罪収益移転防止法で禁じられており、違反した場合は1年以下の懲役や100万円以下の罰金が科される。
だが、SNS上では口座の売買をもちかける投稿が後を絶たない。
情報セキュリティー会社「カウリス」(東京)がX(旧ツイッター)の投稿を分析したところ、口座売買関連の投稿は、今年5月に計約6万件確認され、1万~百数十万円での取引が提示されていた。不正な出入金を自身の口座で請け負う「口座レンタル」を打診する投稿も増えているという。
同社の島津敦好社長は「困窮者や若者が軽い気持ちで口座を売ったり貸したりしている。口座悪用の監視や罰則の強化が求められる」と指摘する。
被害金回収、迅速さ必要

詐取金は送金直後に別の口座に移されることが多く、取り戻すことは容易ではない。それでも、被害金回収の経験が豊富な荒井哲朗弁護士は「被害の発覚直後から即座に様々な手段を講じれば、被害回復も実現できる」と強調する。
口座の凍結や訴訟提起、名義人の特定といった手続きを迅速に進めることで、資金の移転を食い止めることが可能にもなる。過去には、詐取金が移された口座の名義人にたどり着き、訴訟などを通じて全額回収に至ったケースもあるという。
一方、詐取金の回収を巡っては「弁護士に着手金を払ったのに対応してもらえない」という「二次被害」も出ている。東京都の消費生活総合センターには昨年度、そうした相談が53件寄せられた。過去10年間で最も多く3年前の3倍に増えた。
6~7月には、SNS型投資詐欺などの被害救済をうたい、仲間に弁護士の名義を貸して法律事務をさせたとして、元衆院議員で弁護士の今野智博被告(49)が弁護士法違反(非弁提携)で逮捕・起訴された。昨年9月以降、詐欺の被害者約900人から計約5億円の着手金を集めたとされる。
消費者問題に詳しい大迫恵美子弁護士は「被害に気づいた直後は冷静さを失い、更にだまされやすくなる。『確実に回収できる』とうたったり、電話で着手金をすぐに要求したりする相手には気をつけてほしい」と呼びかけている。

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