社会の変化のスピードが速い時代。今から16年後の2040年の日本はどうなっているのか、あなたは想像したことがあるだろうか。そしてあなた自身は、何をしているだろう?
ここでは、池上彰氏が世界、そして日本社会の未来を予測した『 池上彰の未来予測 After 2040 』(主婦の友社)より一部を抜粋。日本の教育はこれからどうなっていくのか――。池上氏の視点を紹介する。(全2回の1回目/ 2回目に続く )
◆◆◆
賃金の低さに激務…今、教員不足が大きな問題に
少人数指導や、総合的な学習の時間でのディスカッションなどを増やしていくとなると、今のままの教員の人数では足りず、増員する必要があります。また近年は小学校や中学校で特別支援学級が急増しており、それに伴う教員需要も増しています。
しかし今すでに、教員不足が大きな問題になっています。
2022年5月時点で、全国の公立小・中学校、高校、特別支援学校では、2778人もの欠員が出ていました(日本経済新聞社調べ)。また教員採用試験を受ける人もどんどん減っていて、公立学校教員の年度採用試験の志願者は全国で計12万7855人と、20年度と比べて15.5パーセントも減少しているのです(朝日新聞社調べ)。
教員採用試験の競争倍率は3.5倍ほどであるため、今はまだ優秀な人材を採用できていますが、これが倍を切ると、教員の質が急激に下がってしまうといわれています。
教員不足の背景には、教員の賃金の低さと、業務の負担が多く激務だということがあります。
激務の背景には、理不尽な要求をしたり文句を言ったりする保護者「モンスターペアレント」が増えたことも挙げられます。最近は、保護者からの個人的な電話に悩まされている教員も多いと聞きます。
自治体によって教育の質に格差が出てしまう
うつ病などの精神疾患を理由に病気休職をする公立学校の教員数も増えています。22年度には過去最多の6539人に上りました。
原因は人によってさまざまですが、主な要因は突き詰めると結局、教員の人手不足とそれによる激務なのだといいます。自分も同僚も上司も、皆が長時間労働を続ける中で、周りにも助けを求められず、子どもたちのために頑張りたくても頑張れない状況に追い込まれ、心が折れてしまうのです。
教員不足や、教員の質の低下は、子どもたちに影響を及ぼしてしまいます。学校生活で生徒に問題が起きても、教員が子どものSOSのサインに気づけなくなったり、子どもの理解が進むような工夫した授業ができず「勉強が楽しくない」と感じる子どもが増えてしまったりします。
教員をどれくらい採用するかは各都道府県・政令市の権限、裁量となっており、文部科学省の仕事ではありません。このまま教員不足が深刻化すれば、教員が足りている自治体、足りていない自治体とで、教育の質に格差が出てしまうことでしょう。
そして「世帯の経済状況や居住地にかかわらず、一定水準以上の質の教育を受けられる」という日本の公立学校の良さが失われてしまう恐れがあります。
〈 「親の所得で教育格差が拡がり…」「公立の生徒は学力がいまひとつに」なぜ“中学受験”はこんなに過熱してしまったのか? 〉へ続く
(池上 彰/Webオリジナル(外部転載))