ポスト岸田の有力候補として注目される自民党元幹事長の石破茂氏。石破氏はどんな政策を訴えるのか。「文藝春秋 電子版」のオンライン番組で、憲法改正や防衛の問題から経済政策まで、自身の政策論を語った。(聞き手・青山和弘)
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集団的自衛権はフルスペックで
――石破さんは安全保障に拘りをお持ちですが、総裁選に向けて、どんなことを訴えていきますか?
石破 国家の責務とは、国民の生命と財産を守ることです。それを守る集団である自衛隊は、最も厳しい規律と最も大きな栄誉がなければ成り立たない。ところが、これまでは「自衛隊は軍隊ではない」と言って、国民を守ることの本質から目を背けてきた面は否めません。
――つまり、戦力不保持を明記した九条二項を憲法改正で削除するという持論は譲れないと?
石破 自民党の党議決定として2012年に政権奪回に挑みましたし、それは今も変わっていません。
――安倍さんは九条二項を残して自衛隊を明記する方針でしたが?
石破 それでは、「自衛隊は陸海空軍ではなく、その他の戦力でもない」という現状を固定するだけです。これは日本人の安全保障観の根底に関わる問題。それをいい加減にしたまま作られる安全保障は、砂上の楼閣でしょう。
安倍政権で、集団的自衛権の限定的な行使は可能とした法解釈にも問題はあります。「日本があなたの国を助けるのは、日本の存立が脅かされた時だけです。そのかわり、日本のどこにでも基地を置いてください」という同盟関係は、世界広しといえど日米にしかありません。安全保障環境が激変する中で、それが唯一無二の正しい考え方なのかどうか。
――石破さんはアジア太平洋地域における集団安全保障体制の創設を訴えています。いわば“アジア版NATO”ですが、それに向けてフルスペックの集団的自衛権を認めるべきだということでしょうか?
石破 当然です。しかし、フルスペックと言っても、何をやってもいいわけではありません。例えば、ロシアのプーチン大統領がウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」と呼んで正当化するのは、ドンバスの同胞から救援要請があったので集団的自衛権を使ったというロジックです。今後の安全保障を考える上では、日本も国家安全保障基本法を制定し、具体的な有事を想定して、「こういうケースで集団的自衛権を使うのは間違っている」と、議論を詰めておかなければまずい。
――安全保障以外で石破さんが重きを置いている課題というのは。
石破 それは、人口の恐ろしい減少、これをどうするんだと。
――これはやはり地方創生ということですか。
石破 そうです。明治維新以降、東京一極集中を徹底的に進めたことで日本は近代化を実現しました。平成の半ばくらいまでは何とか通用しましたが、恐ろしい人口減少により、その限界が顕在化しています。
――「道州制」の導入も考えるべきだと?
石破 それが論理的な帰結とは言いません。ただ例えば、北海道の人口はデンマークなどヨーロッパの中小国家に比肩します。が、GDP(国内総生産)は遠く及ばない。地方創生のモデルとも言える北海道でさえ、そうなのはなぜか。端的に言えば、地域にジャストフィットした政策を行えていないからなんです。北海道の市町村が地域の実情に応じた政策を進めようとしたら、道庁の意見を聞いた後、東京に行って国にお伺いを立てなければいけない。
防衛と外交、財政、通貨政策、教育など、国でなければできない政策以外は、それぞれの道州で完結できるようにすべきです。
アベノミクスの軌道修正を
――経済政策についても伺います。アベノミクスでは企業が儲かれば、国民も利益を享受できるトリクルダウンが起きるとされましたが、幻想だったとお考えですか?
石破 実際、起きなかったじゃないですか。アベノミクスを否定するわけではありませんが、マネタリーベースを2年間で倍にして、2%の物価上昇を実現するという話だったのに、そうはならなかった。安倍政権で産業競争力会議の民間議員を務めた竹中平蔵氏も、「アベノミクスは2年で終わるべきだった」と語っていました。今後はアベノミクスからの軌道修正を図らなければなりません。重要なのは労働分配率の向上です。まずは生産性を上げて、得られた利益をきちんと労働者に分配していく。円安が続いてきたため、輸出産業では数字上、ものすごく儲かったように見えますから、付加価値や生産性の向上にそれほど重きを置かずにここまで来てしまった。
ところが今、円安で物価が高騰し、積極財政で借金も増えた。金利を上げたら国債費がかさむので予算も組めない。完全にどうにもならなくなる前に、「ワイズ・スペンディング」に変えていくための議論をするべきです。もはや、軟着陸は相当難しいでしょうが、飛行機が大破したり、乗客が死傷したりしない程度の着陸をどう実現するか、考えなければなりません。
――財政再建に関しては、憲法に明記して一定程度の規律を守るべきだというご意見でしたね。
石破 憲法に書くかはともかく、財政の機動力は常に担保しておかなければ、いざという時、意味のある財政出動ができなくなってしまいます。コロナ給付金の多くは貯蓄に回りましたが、ほかに使い道は無かったか。世界中でワクチンの開発に多額の公的資金が投入された中、日本は国産ワクチンがなかなか作れずに、保健衛生面での安全保障の危うさを露呈しました。限られた財源の使い道は厳しく検証するべきです。
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本稿は7月17日に「 文藝春秋 電子版 」で配信された オンライン番組 をもとに記事化したものです。記事全文は「文藝春秋」2024年9月号と「文藝春秋 電子版」に掲載に掲載されています(石破茂「 総裁選は同志とともに 」)。
(石破 茂/文藝春秋 2024年9月号)