派閥がほぼ解消されてから初となる自民党総裁選は、候補者乱立が見込まれている。永田町では、総裁選後の秋解散が既定路線となり、選挙の顔になれる総裁を選びたい議員心理がはたらく。だが、世論調査の「次の首相」ランキングで1位常連だったはずの石破茂元幹事長に思わぬ逆風が吹いている。
【写真】石破氏の頼みの綱の党員票を削る最大のライバルは?
立ち往生した自分の車を助けてくれた人を一瞥もせず…
総裁選への挑戦が5度目となる石破氏は24日、地元・鳥取で総裁選への出馬を正式に表明する。
「これまで党内基盤がぜい弱で、何度も大派閥の壁に阻まれてきましたが、派閥がほぼ解消された今回の総裁選が、石破氏にとって最初で最後と言ってもいいくらいのチャンス。地元で出馬を表明することで、地方を大切にする姿勢もアピールし、自身の強みである党員票をさらに上積みしていきたい考えです」(全国紙政治部記者)
しかし、党内での不人気は相変わらずだ。
「1人で黙々と本を読んで勉強することには熱心ですが、後輩の面倒見は悪く、人望はありません。一時期は自身の派閥も率いていましたが、1人、また1人と離れていき、最近石破さんの近くにいる議員は、地元・鳥取選出の人ばかりという有様でした」(前同)ある永田町関係者も、数年前の石破氏のこんな姿を記憶する。
「ある雪の日、永田町近くで立ち往生している車があったので、近くにいた数人で『大丈夫ですか?』と車に駆け寄りました。すると、後部座席から降りてきたのが石破さんだったんです。でも、石破さんは私たちを一瞥もせず、感謝の言葉をかけることもなく、運転手を残してそのままどこかへ行ってしまいました。こんな性格じゃ、党内で人気もないはずだと納得しましたよ」
数少ない味方は石破氏の「敵の敵」?
それでも、出馬を断念した前回とは異なり、今回20人の推薦人を確保できたのは、心強い援軍が現れたからだ。
「国民人気と論戦が武器の石破氏にとって、40代の小林鷹之前経済安保相は手ごわい存在。小林氏は刷新感をアピールできて党員票も見込めるうえ、元財務官僚だけに政策にも通じています。ですが、小林氏は二階派に所属していたにもかかわらず『脱派閥』を訴え、二階派幹部によく思われていません。二階派で事務総長を務めてきた武田良太氏が、小林潰しを画策し、石破氏の推薦人集めを手伝っているそうです」(自民党関係者)
もともと岸田政権下で非主流派に転落した二階派は、石破氏が開催する勉強会に所属議員を参加者として送り込むなど、石破氏とは一定の関係を維持してきた。7月には石破氏、菅義偉前首相、武田氏が会食。その場で石破氏からの総裁選での支援の依頼はなく、菅氏や武田氏にとっては肩透かしだったというが、こうした関係が功を奏して石破氏の「敵の敵」が味方についてくれたというわけだ。
決選投票に残っても「石破氏でなければ誰でも」という包囲網が…
なんとか仲間を増やし、出馬にこぎつけた石破氏だが、本当の勝負はここからだ。「1回目の投票では、投票総数の半数を占める党員票が勝負の行方を大きく左右します。とくに今回は、自民党が逆風を受ける中での総裁選。衆院選での党の顔を選ぶ意味合いも強く、党員人気が高いと報じられた候補に議員票が流れる可能性は高いでしょう」(全国紙政治部記者)
ただ、国民人気の高い石破氏といえども、多くの党員票を獲得するのは容易ではない。「小林氏や小泉進次郎氏の出馬で、今までの総裁選とは大きく構図が変わりました。石破氏の頼みの綱の党員票は、この2人、とくに知名度の高い進次郎氏に削られる公算が大きくなってきています。進次郎氏は石破氏よりも後に出馬を表明する見込みで、石破氏としては話題をかっさらわれてしまう可能性があります」(前同)
今回は候補者が多いため、1回目で過半数を獲得する候補者は現れず、上位2人による決選投票が行なわれることが予想される。そうなると石破氏が決戦投票に残れたとしても、「石破包囲網」が待ち構える。「決選投票では、国会議員票が総数の約9割を占め、残りの1割が都道府県連票となります。議員からの人望がない石破氏にとっては不利な戦いです」(前同)
唯一残る派閥、麻生派を率いる麻生太郎副総裁は、自身の政権末期に「麻生おろし」に動いた石破氏をいまだに嫌う。安倍派にも、安倍晋三元首相を厳しく批判していた石破氏への反発はあり、「石破氏でなければ誰でもいい」との本音も漏れる。さらに石破氏との関係が悪くなかった菅氏も、今回は進次郎氏を猛プッシュ。進次郎氏を推す流れは菅氏周辺だけでなく、他派閥の若手にも広がっており、石破氏VS進次郎氏の決選投票となれば、石破氏の票の上積みは難しくなってしまう。
ほぼすべての派閥が解消されてから、初めての総裁選。石破氏は「反石破派」を破って「5度目の正直」を実現できるか……?取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班