〈<追及・兵庫県政>「言いかた気をつけたらよかったな…」自死した元局長の個人情報を、維新国会議員が一般人に漏えいしていた 記者の直撃に議員は…百条委は「事実であれば極めて深刻な話」〉から続く
数々の疑惑が次々に明らかになり、強弁により築き上げた主張の崩壊が止まらない兵庫県の斎藤元彦知事。最後までかばい続けた維新が突然、手のひらを返して9月9日に辞職を求めたのに続き、12日には他のすべての会派が辞職要求を行なう予定で、19日開幕の県議会での不信任決議案可決へと一直線に向かっている。そんな中で開いた11日の記者会見では、斎藤知事らしくない涙を見せ驚きが広がった。ところがその涙のワケを聞いて、記者団は二度ビックリすることに…
<号泣謝罪といえば…>7月に「知事を支えられへんかった、くやしい」と涙を流した片山元副知事…泣きたいのは遺族や兵庫県民だろう
もし県議会を解散すれば、選挙費用は16億円かかる
「斎藤知事の県政の終わりが突然目の前に迫ってきました」そう語るのは、地元記者のひとりだ。
「これまで最大会派の自民党は9月19日開幕の9月議会の中で、補正予算が成立する10月3日を待って不信任案を出すことを考え、前段として12日に知事に辞職要求を一致して出そうと他の会派に働きかけていました。ところが、維新が批判的な世論の拡大を恐れ、9日に“抜け駆け”して先に辞職要求を知事に突きつけたのです。これで事態が一気に動き始め、自民党は現在、議会冒頭での不信任案提出を検討しています」(地元記者)
11日朝の時点で、86議席の県議会は全会派、全議員が斎藤知事の辞職を求める状況にあり、不信任案の可決は確実、それも、全会一致で可決される公算も高まっている。
こうした中で迎えた11日午後の記者会見。質問は当然、全県議が辞職を要求していることについての受け止めに集中した。これに対し斎藤知事は、今までと同じように、辞職する考えはないと強調。「今の状況は厳しく、結果として県民のみなさんにご心配をおかけし、心からお詫びしたい。そのうえで、私としては、できるだけ(自分で県政を)前へ進めていきたい。頑張っていきたい」と意欲を強調したのだ。
頑張りたいと言っても、県議会で不信任決議案が可決されれば、失職か議会を解散するか、二つのうち一つを選ぶしかない。現行憲法下で知事の不信任案可決は4件しかなく、いずれのケースでも不信任された知事は失職を選んでいる。「今回、混乱の責任は議会になく知事にあるのですから、常識で考えれば不信任を突きつけられれば知事は失職するべきです。もし県議会を解散すれば、選挙費用は16億円かかると見積もられています。その場合、再選挙で構成される次の議会も知事に不信任を突きつけ、斎藤知事が知事職を続けられないのは確実です。それでも、これまでの斎藤知事のふるまいを見れば、混乱拡大や県政の空白も恐れず、解散をしかねないとの見方が強まっています」(県議会関係者)
「こういう状況になったということは申し訳ないな」
そこで質問は当然、「不信任案が可決されれば知事職を退くのか、議会を解散するのか」というところに進む。斎藤知事は「地方自治法に基づいて判断する」と言い続け、答えようとしない状況が続いた。
驚愕のシーンは、会見が1時間を過ぎたころのこと。県政担当記者が、3年前の知事選で自民党が割れ、その一部が斎藤知事を担いだ経緯を挙げながら「明日(12日)の辞任要求をする議員の中には、3年前に知事を担いだ人もいる。どう受け止めるか?」と質問した。
これに数秒間沈黙した斎藤知事は、「まああの、申し訳ないという思いですね。3年前に会派を割って、本当に重い決断をいただいた。その先生方の重い決断の中で、私に対して出馬要請をしていただいたと。そこで私も一緒にやりましょうということで決断しました。それで知事選挙に勝たしていただいて知事に就任して、これまで一緒にやってきたというところです」と、まず自分は自民党に勝たせてもらったとの思いを口にした。
さらに「それで私としては…、自分がやれる政策とか公務を、先生方のアドバイスとかも、まあ十分受け止められなかったところもあるかもしれないですけど、当時、兵庫自民という会派でおられた中で、一緒にやっていこうと。議会が終わるたびに会派の控室も行きましたけど、そこで『がんばれよ』という風に当時も言っていただいてたんで、そこはまあ…」と、この3年間の県政与党との関係を振り返り始めたのだが、ここで突然鼻をすすり上げだした。
「大変あの、申し訳ないな…、と。こういう状況になったということは申し訳ないな、と」目にはみるみるうちに涙がたまり、声が上ずった。県議会調査委員会(百条委)での県議からの追及に対しても弁舌巧みに切り抜けてきた斎藤知事は「AIか」と陰口がたたかれるほど感情の揺れを見せない人物だったが、突然の感情の吐露に記者団は驚き、激しいシャッター音が会見室に響いた。
亡くなった二人や県民のために涙を流すべきでは?
だが、知事の涙は何かが違う、との雰囲気も会見室には同時に漂った。周知のとおり、兵庫県政の今回の問題を巡っては、元西播磨県民局長・Aさん(60)が3月12日に斎藤知事や側近の違法行為疑惑を告発する文書を県議や警察、メディアに送ったことが発端だ。公益通報者として保護されたうえで、告発内容は調査されなければいけなかったが、この文書の内容を把握した斎藤知事の号令のもと、“犯人探し”で摘発されたAさんが報復人事を受け、7月に自死に追い込まれている。さらに、Aさんが告発した違法行為疑惑のひとつに絡み、別の県課長Bさん(52)も4月に自死している。
斎藤知事の涙は、明らかにこの二人のために流したものではなかった。さらに斎藤知事が泣きながら話を続ける。「自分自身に悔しい思いではあります。でもあの、その先生方も、心から今も、感謝はしていますので。はい。ほんとに申し訳ないという思いで私自身は今、います。すんません」
聞けば、自分自身のふがいなさが悔しくて泣いていると言う知事。ほとんど理解を超える説明に、記者会見室には困惑した空気がみなぎった。そこで記者団からは念のため、“涙の真意”を確認する質問が出た。
斎藤知事の命(めい)を受けて、告発文書を書いた人物の割り出しの先頭に立ち、Aさんを脅しつけるように尋問した当時の片山安孝副知事も、7月に辞職すると表明したときに涙を流すふりをしているが、このときも片山氏は「なんで知事を支えられへんかったんか、それが悔しい」と言ってのけ、直前に自死したAさんに思いを寄せることはなかった。
このときと同じような居心地の悪い泣き姿を見せられた記者団からはその後、「亡くなった二人や迷惑をこうむっている県民のために先に涙を流すべきではないんですか」との詰問が続くことになった。知事の涙を見て「いよいよ観念して、不信任決議案が通れば辞めるのではないか」との観測も早くも県庁内では出ている。だが知事の胸中を測るには材料が少なく、この先、知事が県議会の三行半に素直に従うか、逆ギレして解散を選ぶかは予断を許さない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班