イルカなど小型鯨類の追い込み漁が国内で唯一続く和歌山県太地(たいじ)町で、過激な抗議行動を繰り返してきた反捕鯨団体の姿が激減している。活動の中心的存在だった「シー・シェパード(SS)」創設者が7月に海外で拘束され、今季の初出漁時に現場で抗議したのは数人にとどまった。ただ、交流サイト(SNS)での活動は沈静化していないとの指摘もあり、警察当局は「何がきっかけで再燃するか分からない」と警戒を続ける。
初出漁を迎えた今月5日早朝。太地漁港で準備する漁師らに向け、「イルカ漁反対」の幕を掲げる数人の活動家の姿があった。周囲では多数の警察官がトラブルなどに備え目を光らせた。
和歌山県警は令和2年に建設された現地警戒所を拠点に、24時間態勢で活動家の違法活動などを警戒している。8日には今シーズン初めて約10頭が捕獲されたが、県警関係者は「これまで混乱は特にない」と明かす。
人口約3千人の太地町が世界の注目を集めるようになったのは、平成21(2009)年公開の米映画「ザ・コーヴ」がきっかけだ。太地のイルカ漁を批判する内容で、翌年には米アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。
映画の公開以前からSSなど海外の活動家による妨害行為はあったが、公開後は訪れる活動家が激増。県警によると、ピークの25年度には約200人の活動を確認した。イルカのいけすの網が切られたり、捕鯨のモニュメントを壊されたりする悪質な事件も続発した。
毎年9月の初出漁時には、数十人が現場で抗議活動を展開。県警も漁期(9~4月)を中心に現地拠点を設けて警戒してきた。だが、新型コロナウイルス禍を経て、昨シーズンの初出漁時に現場に現れたのは15人ほど。漁期を通じて活動が確認できたのも計約50人だった。さらに台風の影響で初出漁がずれ込んた今シーズンの活動は「沈静化している」(県警関係者)のが実態だ。
太地のイルカ漁問題に詳しい大和大の佐々木正明教授は、活動家の減少について「日本の入管当局が大物活動家の入国を拒否するなどした影響で、太地での活動がステータスだった時代は過ぎた。新型コロナウイルス禍の影響も大きい」と分析。一方でSNSでの活動は活発とし、「ネット空間はむしろ活動が広がっている」と指摘する。
また、太地で長年活動を展開し、日本の調査捕鯨を妨害した疑いで国際手配されたSSの創設者、ポール・ワトソン容疑者が7月、デンマーク自治領グリーンランドで拘束された。日本政府は身柄の引き渡しを求めるが、可否の判断に時間を要している。海外では釈放を求める声も上がり、佐々木氏は「日本に引き渡された場合、批判が太地に向かう可能性がある」との見方を示した。(小泉一敏)