「富士山ローソン」目隠し黒幕騒動はこれで幕引き? 地元町長の「再設置せず」のその後 深層リポート

山梨県富士河口湖町でコンビニの上に富士山がのったような写真が撮れるスポット「富士山ローソン」。訪日客(インバウンド)が殺到した上にマナー違反も目立ち、オーバーツーリズム(観光公害)の象徴とされた。町は黒い目隠し幕を設置する異例の対策をとったが、海外メディアも含め大きく報道され、幕設置の賛否が問われた。台風対策で8月に幕を外した後は、客数やマナー違反の減少を踏まえ、再設置しない判断を下した。世界的に注目された「目隠し黒幕騒動」は、これで幕引きとなるのか。
〝黒幕町長〟と呼ばれ
「スイスでの姉妹都市交流の際も現地で幕が話題になり、国内では〝黒幕町長〟と呼ばれることもあった」
富士河口湖町の渡辺英之町長は目隠し幕設置の反響の大きさを自虐的に話す。
「ローソン河口湖駅前店」は2年半ほど前から「富士山ローソン」として交流サイト(SNS)で情報が広まり、新型コロナ禍明けの昨年から撮影客が急増した。特に道路を挟んだ向かいの歯科医院前からのアングルに人気が集まり、狭い歩道に人が殺到するだけでなく、喫煙やごみのポイ捨て、歯科医院の駐車場への無断駐車、私有地への入り込みなど、観光客によるマナー違反が相次いだ。自動車の間を縫って横断歩道でない場所を横断するなどの危険行為も問題となった。
対策もイタチごっこ
富士河口湖町も警備員を配置し、注意喚起するなどの対策をとってきたが、問題は解決せず、今年4月には大型連休に合わせ、5月3日までに目隠し幕を設置することを決定。幕の調達が遅れたため、同21日に農業用の黒幕を設置した。
しかし、直後には小さな穴があけられ、スマートフォンのカメラで富士山ローソンを撮影する外国人観光客が現れた。町は7月に「黒幕ではイメージも悪い」(渡辺町長)と景観に配慮すると同時に、素材を強化した茶色の幕に張り替えた。それでも穴があけられ、対策として幕設置の経緯などを説明するホームページのQRコードを印刷したポスターで穴を覆い隠すなど、イタチごっこが続いた。
再燃懸念も
町では8月15日に台風7号の接近を受け、幕を取り外した。防災上の一時的な対応だったが、幕設置効果を確認するため、外したままの状態を継続した。警備担当者に聞くと「歯科医院側での撮影は増えてはいるが、マナー違反は少ない」という。
そして同30日、定例記者会見で渡辺町長が「現状では多くの人が集まっている感触はない」とし、幕を再設置しない方針を明言した。関係者からは、「SNSでも話題となっていて、外国人観光客が敬遠しているのではないか」といった声も聞かれる。
観光政策に詳しい日本総合研究所調査部の高坂晶子主任研究員は町の対応について、「オーバーツーリズムに特効薬的な対策は少ないとされる中、SNSでの露出が減るような取り組みで来場者を抑制し、一定の効果を発揮した」と評価する。ただ、富士山ローソンがかつてのように撮影できる状態に戻り、「SNSでの露出がまた増えればオーバーツーリズムが再燃する可能性もある。幕の再設置などの対応の要否をあらかじめ検討しておくことが望ましい」と、黒幕騒動が容易に収束しない場合の備えの重要性を指摘する。

オーバーツーリズム 観光客の急増が地元住民の生活や自然環境、景観などに悪影響を与え、観光客の満足度も低下させるような状況。「観光公害」ともいわれる。SNSによって住民や自治体が想定していない場所に観光客が集中することも多く、人気アニメ「スラムダンク」に登場した江ノ島電鉄・鎌倉高校前駅(神奈川県鎌倉市)近くの踏切などでも訪問者の滞留が問題となっている。
~記者の独り言~ ウェブサイト「産経ニュース」で昨年4月に「バズる富士北麓の新ビュースポット」という記事を掲載し、その中の1つが「富士山ローソン」だった。それだけに、この問題は興味を持って取材してきた。SNSによって、いつ、どこがオーバーツーリズムの問題に直面するかわからない時代に、富士山ローソンの動向が全国の自治体担当者や関係者らの参考になることを期待したい。(平尾孝)

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