迫る南海トラフ、首都直下地震 100年変わらぬ避難所、防災政策で問われる国のあり方

近い将来に南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生が危ぶまれる中、27日投開票の衆院選では防災行政も争点の一つとなっている。今年1月の能登半島地震では避難生活で亡くなる「災害関連死」が約200人に上っている。被災者が体育館で雑魚寝する環境は「100年前から変わらない」(有識者)と指摘されており、避難所のあり方も問われている。
「関連死は事故」
「避難所の環境改善には大規模な備蓄が必要だ。震災の度に補正予算を組むのでは遅過ぎる。床で寝れば体に悪いことは誰でも分かるはず」。能登半島地震で避難所の医療支援を行った新潟大特任教授の榛沢(はんざわ)和彦医師はこう話す。
榛沢医師は4月まで被災地で18回にわたり、避難所や車中泊での窮屈な姿勢などが原因で起きる「深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)」の検診を行った。被災者計1548人の約9%で血栓を検出したという。
平成28年熊本地震では災害による直接死の4倍近い200人以上が災害関連死だった。榛沢医師は「『関連死』という言葉でごまかしているが、避難所での死亡事故と考えるべきだ」と訴える。
昭和5年に伊豆半島北部で起きた推定最大震度6の北伊豆地震の写真には、床に布団を敷いて寝る被災者の様子が写る。現在は避難者データの電子化や物流システムなどでIT技術が駆使されているが、避難所のあり方は大きく変わらない。
重要な「TKB」
環境改善で特に重要なのは頭文字で「TKB」と言われるトイレ(T)、キッチン(K)、ベッド(B)だ。能登半島地震ではトイレが大幅に不足し、衛生環境の悪化が深刻化した。
ベッドについては段ボールベッドで高さ30センチに上げれば、直接床に横になるよりもウイルスの付いた粉塵を吸い込むリスクを半減できるという。
これらを大量に備蓄する場合、避難所運営を主体的に行う市町村では予算や人員に限界がある。災害時には流通在庫からプッシュ型支援を行うが、政府は現在1カ所の備蓄拠点を来年度以降、全国7カ所へ拡大する。国や都道府県のさらなる維持管理体制の強化は不可欠な一方、限られた財政状況で、どこまで予算を割くかは問題だ。
今回の衆院選で自民、公明両党はTKBの支援に加え、「防災庁」設置による対応強化を掲げる。立憲民主党は災害時に権限・予算を被災自治体へ移譲する法整備を提案。共産党は国からの交付金額引き上げ、国民民主党はボランティア活動費の税控除を盛り込んだ。日本維新の会は1週間以内の物資供給を国の指針にするとした。
東大大学院の片田敏孝特任教授(災害社会工学)は「市町村が防災対応の一義的責任を負う現在の法体制は限界がある。どこまで防災に本腰を入れるか国民的議論が必要だ」と話している。

日本は避難所〝後進国〟
米国やイタリアなど先進諸国の災害対応では、国やボランティアによる支援体制や大規模な備蓄施設が整っている。
自然災害が多いイタリアでは国の災害防護庁が計画し、州政府やボランティアによる支援網が構築されている。避難所では全員分のベッドとともに家族ごとにテントが設営される。シャワー付きのコンテナトイレも設置され、食堂ではキッチンコンテナの厨房で作る温かいパスタなどの食事が提供される。
国の施設に数千人分のベッドなど資材が備蓄され、事前に訓練を受けたボランティアを数十万人規模で登録。災害防護庁の指揮で被災地に入り、1日で避難所を開設できるよう訓練している。
一方、米国では「連邦緊急事態管理庁(FEMA)」が一元的に担う。FEMAは年間予算約4兆円、職員数約6千人、非常時には計1万6千人が参集する大組織だ。FEMA管理の避難所では、必要な物資や設備が常にそろっている。ただ、米国では在宅避難が推奨され、州政府やNPOと協力して個人への直接支援が展開される。(市岡豊大)

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