映像ジャーナリストの伊藤詩織氏が自身の監督映画「ブラック・ボックス・ダイアリーズ」を巡って東京新聞の望月衣塑子記者の記事で名誉毀損(きそん)されたとして望月氏を提訴した問題で、伊藤氏の弁護団が18日、訴訟を取り下げると表明した。「作品を巡る対話が、作品の主題と無関係な訴訟を巡る論争によって妨げられるとすれば、作品にとって有害だ」としている。
紛議調停も取り下げ
伊藤氏の現在の代理人弁護士である師岡康子、神原元両氏が明らかにした。
映画を巡っては複数カ所の映像が許可なく使用されているとして、倫理的懸念を訴えた元代理人の西広陽子弁護士らに対し、伊藤氏は依頼主と弁護士の間にトラブルが生じたとして「紛議調停」を申し立てていたが、今回紛議調停も取り下げる。
訴訟取り下げに至った経緯について「平和を求め軍拡を許さない女たちの会」(代表・田中優子法政大前総長)が2月16日付で要望書を公開するなど取り下げを求める複数の声が上がったことを挙げた。また、伊藤氏は許諾を得ていない映像の再編集を約束しており、「本件訴訟の評価を巡って対立が深まり、対話が進まないことはわれわれの歓迎する所ではない」としている。
提訴は2月、名誉毀損で
伊藤氏は2月10日、望月記者に名誉を毀損されたとして330万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。
訴状などによれば、東京新聞は1月14日、望月記者の署名で伊藤氏の映画について「女性記者たちが性被害などを語った非公開の集会の映像が、発言者の許諾がないまま使われていた」とする記事を公開した。一方、伊藤氏は「発言者のうち自らの性被害について語ったのは、女性1人のみで、伊藤氏はこの女性から映画での映像使用について事前の承諾を得ている」と反論した。
ただ、東京新聞の記事によると、参加者の一部は映画で使用されることについて「許諾していない」としている。うち1人は、発言している場面が映画に使用されたため、伊藤氏に削除を要求したという。
伊藤氏の映画は受賞は逃したものの、米ハリウッドで3月2日に発表されたアカデミー賞にノミネートされていた。(奥原慎平)