名古屋市で2022年8月、高速バスが走行中に横転、全焼して9人が死傷した事故で、事業用自動車事故調査委員会は21日午後、調査報告書を公表した。事故死したバス運転手(当時55歳)の睡眠時無呼吸症候群(SAS)による居眠り運転を原因として推定し、SASへの対応を運転手本人に任せて放置したバス会社の不備も指摘した。
事故は22年8月22日午前10時過ぎ、名古屋市北区の名古屋高速道路小牧線下り・豊山南インターチェンジ出口付近で発生した。名古屋空港に向かう高速バス(乗客乗員8人)が、本線と出口を区切る分岐帯に時速約70キロで衝突して横転、炎上し、乗客男性(当時64歳)と運転手が死亡、残る乗客6人と後続車の男性が重軽傷を負った。
報告書によると、運転手は21年3月に自動車事故対策機構による運転者適性診断を受け、「SASの恐れが非常に高い」と指摘されていた。この診断内容や別の車両に記録されたドライブレコーダー映像などを分析した結果、運転手はSASだった可能性が高く、事故当時も意識レベルの低下と覚醒を繰り返しながら走行し、衝突に至ったと推定した。
さらに、適性診断の結果は運行会社「あおい交通」(愛知)にも通知され、事故以前には「走行がふらついていた」との苦情も寄せられていたにもかかわらず、同社がSASの専門的な検査や個別の指導といった対応を怠った点を事故の背景要因として指摘した。
事故調は再発防止のため、SASへの対応を運転手任せにせず、バス会社が専門的な検査を積極的に行う必要があるとしたほか、国にも対策強化を求めた。国土交通省は25年度から、バスやトラック、タクシーの運転手がSASや心疾患、視野障害などの専門検査を受ける場合、費用の半額を補助する取り組みを始める。
事故を巡っては、愛知県警が23年3月、運転手を容疑者死亡のまま自動車運転死傷行為処罰法違反(過失運転致死傷)容疑で名古屋地検に書類送検、同7月に不起訴となった。