熊本市の慈恵病院が運営する「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に預けられた乳幼児や「内密出産」で生まれた子どもを巡り、市と病院でつくる検討会は21日、出自を知る権利の保障に関する報告書を公表した。子どもが情報を開示請求できる年齢を「18歳が適切」などと整理したが、出自情報の管理などの法整備がない中で対応する限界を指摘し、国に法制化を求めた。報告書は慈恵病院での運用に反映し、こども家庭庁にも提出する。
ゆりかごは匿名でも預け入れができ、内密出産は妊婦が病院にのみ身元を明かして利用する仕組み。いずれも親の匿名性を保障して危機的状況の母子を救う目的だが、子どもが出生に関わる情報を知ろうとする際にその権利を損なうとの指摘があった。また、病院に蓄積される出自に関する情報の扱いには国の明確なルールがない。そこで2023年に設置された検討会が、同種の取り組みを検討する医療機関などの参考になるよう論点整理を進めた。
報告書では、出自に関する情報を①父母の身元が特定される氏名、住所、生年月日②父母の国籍、連絡先、血液型、預け入れの経緯など③子ども自身の氏名、出生日時・場所、出生時の状況④父母からの思い、手紙・写真などの有無⑤きょうだいや祖父母らのこと――の五つに分類した。
開示について①は父母の同意が必要で、②も個人情報保護法などの壁があり同意の条件を付した。⑤もきょうだい、祖父母ら情報主の同意が必要なものと整理。同意確認は、子どもが開示請求した時点を基本とした。一方、知る権利の推進を図るため、父母の思いなどが分かる情報は同意条件を外した。
開示請求できる年齢は、民法上の成人年齢などを考慮して「18歳が適切」と判断。15歳以上であれば、精神的な安定度やサポート体制も勘案して開示手続きを進めることが可能とした。情報は慈恵病院など医療機関や児童相談所などで永年保存することとした。
国に対しては、将来あるべき姿として▽法律による出自を知る権利の明確な保障▽出自情報の定義の明確化や法制化▽国の専門機関による出自情報の一元的な保存――の検討などを求めた。検討会の森和子座長(元文京学院大教授)は「報告書により社会の理解が進み、課題の解決が図られ、法整備が加速することを期待する」と話した。【中村敦茂】