〈関東連合元メンバーがタイで拘束〉特殊詐欺グループトップの身柄拘束でみえてきた、重要指名手配中のあのオトコの消息「カンボジアにいる噂は昨年からあった」

驚きの一報が伝えられたのは、新年度を目前に控えた3月の終わりのことだった。タイの首都バンコクで、「関東連合」元メンバーが身柄を拘束された――。列島を駆け巡ったそのニュースに、少なくない警察関係者、マスコミ関係者、そしてヤクザや半グレたち、「裏社会の住人」までもが色めき立った。2012年9月、東京・六本木のクラブで起きた事件の首謀者として指名手配されているお尋ね者の名前をにわかに想起したからだ。警察庁が「重要氏名手配被疑者」としてその行方を追う見立真一容疑者、その人である。
〈画像〉タイ警察に拘束された“トミー”こと山口哲哉容疑者
「仲間内では『トミー』の愛称で呼ばれていた」
「〝特殊詐欺Gトップ〟タイで身柄拘束 強制送還へ」。3月20日、こんな見出しで初報を伝えたのは日本テレビだった。これを皮切りに、TBS、フジテレビ、テレビ朝日と在京テレビ各局が追随した事件のあらましは以下のようなものだった。
「タイ警察に身柄を拘束されたのは山口哲哉容疑者(46)でした。山口容疑者には電子計算機使用詐欺などの容疑で埼玉県警から逮捕状が出ており、警察庁を通じて現地の大使館からの要請でタイ警察が動いていました。
3月14日までに、山口容疑者が滞在していたバンコクで取り押さえられ、タイ警察が3月20日に会見を開いたことで事案が発覚。すでにタイでの滞在許可を取り消され、日本に強制送還される予定であることも明らかにされました」(全国紙社会部記者)
複数のメディアが報じたところによると、山口容疑者はカンボジアを拠点とする特殊詐欺グループを率いていた疑いがあり、タイをはじめとしてベトナムやミャンマーなど東南アジア諸国を行き来した形跡もあるのだという。
注目を集めたのは山口容疑者が、警察庁が暴力団に準じる反社会勢力とする「準暴力団」、いわゆる“半グレ”と位置づけている「関東連合」の元メンバーだと報じられた点だ。どんな人物だったのか。
「山口容疑者は、本名とは別に『冨沢哲也』という通称を用いており、仲間内では『トミー』の愛称で呼ばれていたようです。過去にも特殊詐欺での逮捕歴があり、(関東)連合内では資金面でメンバーの活動を支える存在でもありました。
彼は、警察庁が「重要指名手配被疑者」としてその行方を追う見立容疑者とは少年院時代からの知り合いで、同じ昭和53年世代ということもあり、かなり打ち解けた仲だったといいます。事件後に分裂した連合内で、『見立派』の急先鋒として動いており、反目する形となった元メンバーの襲撃に関わったこともあったとか。
タイの現地メディアによると、バンコクでは高級住宅街のサトーン地区で月額家賃が70万円超の高級マンションに住み、身柄拘束時には仮想通貨などで1億円超の資産も保有していたとも報じられている。美術品の売買を行なうウェブサイトを運営しており、マネーロンダリングをしていた形跡もあります」(同前)
「噂は昨年ごろから確かにあった」
山口容疑者については、日本に身柄が移されてから、逮捕状を取った埼玉県警による本格的な取り調べが始まるとみられるが、その供述内容を注視するのは同県警の捜査員だけではないはずだ。
警察当局は、東京・六本木のクラブ「フラワー」襲撃事件の主犯格である見立真一容疑者(46)と、山口容疑者の接点にも捜査の焦点を合わせるものとみられる。
「見立容疑者の逃亡先として名前が挙がっていた国のひとつが、山口容疑者が拠点としていたカンボジアです。山口容疑者は現地で見立容疑者と接触していた可能性が極めて高い。このところカンボジアでは特殊詐欺グループの拠点の摘発が相次いでいますが、これは日本の警察庁と現地警察との間での情報連携や捜査協力が進んでいる証左です。
山口容疑者と見立容疑者の現地での動向についても情報収集を進めているとみられ、山口容疑者への取り調べで、検挙につながるようなより詳細な情報を得ようとするでしょう」(同前)
実際、見立容疑者の動向を巡っては、昨年半ばごろから不穏な動きもあったという。東南アジア諸国に渡航する機会の多い、暴力団関係者が声を潜めて言う。
「見立がカンボジアにいるらしい、という噂は昨年ごろから確かにあった。表立って言われるようになったのは、昨年9月に現地の犯罪事情についてレポートした週刊誌の記事が出てから。
複数の(関東)連合関係者が見立と行動を共にしていると聞いていたし、その中にトミーの名前も挙がっていた。ほかにも連合の人間とは別に、見立と接点があり、日本とカンボジアを行き来する人間がいるとも聞いていた。
今年に入ってからもカンボジアでの見立の動向に関する記事が出て、本人のものとされる真偽不明の写真も出回ったから、何か動きがあるのか、と気になってはいたんだ」
山口容疑者の身柄拘束のニュースは、そうしたいくつもの伏線の延長で出てきただけに、関係者の間では「俄然注目を浴びた」(前出の暴力団関係者)という事情もある。
ガラをかわすのはそう難しいことじゃないはずだよ」
はたして見立容疑者も山口容疑者と同様にタイに身を潜めているのか、あるいは“潜伏説”が根強いカンボジアにとどまっているのか。いずれにしても、捜査上のハードルは低いとはいえない。カンボジアの詐欺グループと接点のある金融業者が現地事情をこう明かす。
「カンボジアには主に三つの犯罪グループが勢力を張っている。中国マフィア系、カンボジア人、そして日本人のグループだ。日本人のグループを仕切っているのは、半グレとかではなくヤクザだよ。名前は言えないけどね。
向こうの公務員はほぼ全員が金で動くから、たとえば税関なんかも賄賂さえ渡しておけばフリーパスで何でも持ち込める。空港職員も組織ぐるみで買収しているから、誰がいつ入国したか、すぐにわかる。オレたちみたいな不良も入国した途端に向こうのグループに拉致られたりするぐらい。
たとえば、日本からサツカン(警察官)が捜査のために入国したとする。すると金で抱き込んだ職員がすぐに知らせてくれる。積極的に逃がしてくれたりっていうのはもちろんないけどね。
見立氏の話は聞いたことないけど、カンボジアにいるなら、ガラをかわす(身を隠す)のはそう難しいことじゃないはずだよ」
見立容疑者が主導したとされる「フラワー事件」を契機に、警察白書には組織犯罪の形態に「準暴力団」という類型が加わり、「半グレ」という存在の危険性が世に知らしめられた。あれから約13年。犯罪史に残る事件の輪郭がいま、おぼろげに現れようとしている。
※「集英社オンライン」では、今回の事件についての情報を募集しています。下記のメールアドレスかX(旧Twitter)まで情報をお寄せください。 メールアドレス: shueisha.online.news@gmail.com X(旧Twitter) @shuon_news
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班

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