八潮陥没事故は氷山の一角…“インフラ成人病”に警戒せよ《土木学会元会長が緊急提言》

埼玉県八潮市の道路陥没事故は氷山の一角にすぎない。八潮の事故を受けて設置された有識者会議委員長で、土木学会元会長の家田仁が 警鐘 を鳴らす。
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日本に潜在するインフラのリスク
1月に発生した埼玉県八潮市での道路陥没事故では、トラック運転手の男性が巻き添えになりました。この事故の原因がなんであったかは、いずれ専門家による究明がなされることでしょう。原因が何であれ、この事故はインフラ全般の潜在的なリスクを物語るものです。全国どこでもインフラに関わる事故のリスクを抱えていると考えるべきです。いたずらに危機感を煽りたいわけではありませんが、国民の皆さんには、あの事故を契機にインフラ整備についての認識を変えていただきたいと思っています。そのためにはまず、インフラが我が国でこれまでどのように整備されてきたか理解しなければなりません。
いま使われている、日本のインフラ、すなわち、道路や橋、上下水道などのほとんどは、戦後の高度成長期からバブル崩壊までに作られたものです。当時の時代精神はスクラップ&ビルド。とにかく早く作ることが最優先され、いずれ古くなったり壊れたりしたら、更新すればいい、と考えられていました。用地取得にかける時間を節約するために東京の水路の上をうねるように建設された首都高速道路が、その典型例です。高度成長期はとにかく日本全国津々浦々にインフラを張り巡らせる“水平展開”の時代でした。同種のインフラを全国へと普及させていく“水平展開”がどんどん進むと同時に、これまでの整備理念や技術とは質的に異なるハイグレードなインフラ整備も進められるようになりました。ETC導入や歩行者・自転車のための道路充実や都市の景観改善、あるいは河川や湖沼などの環境整備などはその典型で、私はこれを“垂直展開”と呼んでいます。しかし、高度成長期以来、率直に言ってやはり“水平展開”に極めて大きなウェイトが置かれ、“垂直展開”はまだまだ不足しています。
しかし、右肩上がりの時代はとうの昔に終わりました。1991年にバブルが崩壊した後、日本は低成長期に入り、人口も2008年にピークに達し、減少期に入りました。地方の過疎化もどんどん進んでいます。それに伴い財源不足や人手不足も顕著になってきました。このような状況下では、インフラが老朽化したら作り直せばいい、というスクラップ&ビルドの発想は捨てなければなりません。必要なのは、今あるものを直し、長持ちさせていく、メンテナンスを含むマネジメントの発想です。
築50年からが勝負
インフラが高齢化して、いわば「成人病」に注意しなければならない年数は、作られてからだいたい50年くらいと考えられています。日本のインフラはすでに述べたように60年代から80年代に作られたものが多いので、築50年を迎えるインフラは下水道であれば2020年時点で全体の5%だったのが、2030年には16%、2040年には35%にもなります。
道路橋の状況は、さらに顕著です。築50年を迎える道路橋は2020年に全体の30%だったのですが、2030年には55%、2040年には75%に達します。
この“50年”は、あくまで目安です。長持ちするように設計され、頑丈に造られ、丁寧にメンテナンスされているものであれば、もっと長く安全に使うことができます。しかし、いま日本で日夜使われているインフラは、そのようなものばかりではありません。「インフラは誰かが何とかしてくれるもの」という意識から国民が覚醒し、高齢期に入るインフラの修繕・改良・更新を適切に組み合わせて、合理的なインフラマネジメントを着実に実施していく体制を今かためなければ、様々な重大な事態が繰り返し起きかねません。
※本記事の全文(約7000文字)は、「文藝春秋」2025年4月号と「文藝春秋PLUS」に掲載されています(家田仁「 老朽インフラ事故防止に秘策あり 」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。
・ 築50年からが勝負
・笹子トンネル事故の衝撃
・財源も人材も足りない
・“群マネ”を導入せよ
・受注・発注も一括で
・メンテは待ったなし
・インフラを政治的イシューに
(家田 仁/文藝春秋 2025年4月号)

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