開会式会場を設計した「プリツカー賞」建築家、万博のテーマに反発し応募…意識したのは「太陽の塔」

12日に大阪・関西万博の開会式が開かれたEXPOホール「シャインハット」は、国際的な建築家で、文化功労者の伊東豊雄さん(83)が設計した。「文化が耕される場所にしたい」と語った。(高木文一)
「未来社会とは」問う

伊東さんは、「せんだいメディアテーク」や東日本大震災を機に設計した「みんなの家」などの公共建築で知られる。「建築界のノーベル賞」と呼ばれるプリツカー賞を受賞している。
ホールは、黄金に輝く円形の大屋根(直径67メートル)が特徴。内部には円形の舞台を備える。
伊東さんは、万博のテーマ「いのち輝く未来社会のデザイン」への反発心から設計の公募に参加した。万博は未来社会の実験場とされており、先端技術の活用ばかりが強調されないか、危機感を持ったという。
「AI(人工知能)や最先端の映像技術に頼っても、生きる素晴らしさや喜びは満たされないのではないか。『未来社会』に徹底的に逆らってやろうと思った」
頭にあったのが、1970年大阪万博で岡本太郎が手がけた太陽の塔だった。下積み時代、丹下健三が主導した大阪万博の全体計画に関わっていた。当時、丹下が描いた未来都市に憧れたが、建築費の高騰で計画は先細りした。失望し、開幕後は会場にも行かなかった。
結局、大衆に支持されたのは未来都市ではなく太陽の塔だったと感じた。「技術の進化では満たすことができない生命力や自然とのつながりを、人々は太陽の塔に求めたのだろう」
設計にあたり、建築で人に生きる力を与えることに挑んだ。古代の遺跡を思わせるシンプルな形状を採用し、ホールの壁には短冊状の白い布を重ねて貼る装飾を施した。「手の痕跡」を残し、人の息づかいを感じられる空間にした。黄金の屋根は、太陽の塔の顔を意識して作ったものだ。
「文明は土から離れ、文化は土に近づいていくものだ」と考えている。ホールで祝祭が華やかに幕を開けた後は、参加国や地域の催しがたくさん開かれ、文化を耕す場所になってほしいと願う。
「いのち輝くとは何か。未来社会とは何か。今一度、問い直すきっかけになればいい」と話している。

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