愛媛山林火災1カ月 専門家が指摘する“新たなリスク”土砂崩れ

23日で発生から1カ月となる愛媛県今治市と西条市で起きた山林火災。14日に鎮火が発表されたが、4月初めに現場を訪れた土砂災害研究が専門の木村誇(たかし)・愛媛大大学院農学研究科准教授(砂防学)は、山林が焼失したことで土砂崩れ発生のリスクが高まっていると指摘する。木村氏は「樹木や落ち葉が燃え尽きた灰が一面にあり、地中に雨水が染み込まず、土石流になる可能性がある」と警鐘を鳴らす。
木村氏は今回の火災による土砂災害への影響を調査するため、さまざまな衛星データを活用し、延焼範囲内の燃焼度をレベル別に色分けして解析。そのデータに基づき、燃焼が強かったエリアを確認するため鎮圧後の4月1、3両日に2回にわたって現場を歩いた。
木村氏によると、既に熱さはなかったが、焦げた臭いは充満していた。広葉樹などの林だったと推測されるエリアでは、大きい木は焼け焦げながらも形は残っていたが、枝や葉は完全に焼け落ちていた。落ち葉や背丈の低い木などは燃え尽き、地表には木々の燃えかすや灰が3~5センチほど積もった状態だった。
焼けた斜面で土砂災害が発生する恐れがあるのはなぜなのか。木村氏は「雨水の地表への到達や地中への浸透が変化してしまうことが予想される」と説明。通常の斜面では、樹木の枝葉が傘の役割を果たし、雨水の一部が蒸発する「樹冠(じゅかん)遮断」という現象で地表に到達する水量が調節される。地表に降り注いだ雨水も落ち葉や土にゆっくり浸透し、あふれることはない。だが、焼失によって樹木がなくなった状態では、全ての雨水が地表に降り注ぐ。積もった灰は粒子が細かいため、雨水が浸透しにくい。雨水は斜面に沿ってそのまま流れ、地表が削られ、さらに灰や倒流木などを取り込んだ流水が沢を下り、土石流が発生する場合もあるという。
木村氏によると、山火事が多発する国では土石流の発生が多く報告されているが、国内ではこれまで山火事やそれに伴う土砂災害の発生が少なかったため、山火事後の土砂災害の危険性については不明な点が多いという。米国では山火事の被災地は雨による警戒避難基準を引き下げるなどしており、木村氏は「火災が雨による土砂災害に強い影響を与えると認識されている」と指摘する。
特に危険なのは水が集まる谷で、「森林の燃焼面積の割合が高い谷ほど火災後の変化が大きいのでは」(木村氏)。今回の山火事の延焼範囲には小さな谷がいくつも含まれ、衛星画像の解析で森林の燃焼面積の割合が高かったのは、今治市長沢地区や亘地区などの上流域だったという。
どうすれば災害被害を防げるのか。木村氏は「1、2カ月後には降雨量が多くなるので、土のうなどの応急処置を取るべきだ」としたうえで、「元の状態に戻るのには時間がかかる。今後は土砂流出などの危険性が高いエリアを調査し、砂防ダムの整備など恒久的対策を検討していく必要がある」と述べている。【広瀬晃子】

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