免疫の力を利用してがんを攻撃する「がん免疫療法」で、治療薬の効果を高める腸内細菌を新たに発見したと、国立がん研究センターなどの研究チームが14日付の英科学誌ネイチャーに発表した。がんに対する免疫の反応を高める新たな薬への応用も期待できるとしている。
がんが免疫細胞の攻撃から逃れるためにかけているブレーキを外し、本来の攻撃力を高める治療薬は「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれる。「オプジーボ」で知られるPD-1阻害薬などが実用化されている。
阻害薬は他の治療と併用しても、効果が長続きする患者は約2割に限られている。薬が効いた患者の便を効かなかった患者に移植すると効果が得られることから、腸内細菌が関係すると報告されていたが、腸から離れた肺などのがんに影響を及ぼす仕組みは分かっていなかった。
薬が効いた患者の便をチームが調べたところ、ルミノコッカス科という種類の腸内細菌が多かった。この種類の菌が多い患者は治療効果が続き、がん細胞を攻撃するT細胞が腫瘍内で多く見られた。
チームはこの腸内細菌が新たな細菌株「YB328」だと特定した。この菌と薬を投与したマウスではがんが縮小し、薬が効かない便と一緒に投与した場合でも薬の治療効果が改善した。
YB328が腸内で免疫応答の司令塔となる「樹状細胞」を活性化させ、樹状細胞が腸から離れたがん組織まで移動して近くのT細胞を活性化することで、免疫効果を発揮することも明らかになった。
国立がん研究センター研究所の西川博嘉・腫瘍免疫研究分野長は「薬が効かない人の便にこの菌を投与するだけでなく、効いた人に追加しても、さらに治療効果が良くなる可能性がある」と話した。
論文は以下のウェブサイト(https://doi.org/10.1038/s41586-025-09249-8)で掲載されている。【寺町六花】