中国から輸入され、クレーンゲームの景品などとして流通したプラスチック製の玩具銃の回収を警察が急いでいる。警察庁は「実弾を発射する能力がある」と判断しており、所持していると銃刀法に抵触する可能性がある。対象は過去最大規模の約1万5800丁に上る。九州・山口・沖縄で少なくとも約2600丁が出回っている恐れがある一方で、回収できたのは2割超にとどまっている。(松田史也、星原優璃)
全国の警察が回収を呼びかけている玩具銃は「リアルギミックミニリボルバー」(全長約12センチ)。プラスチック製の弾8個が付属し、弾を込める弾倉と銃身が貫通するなど、実弾を発射できる構造だった。対象年齢は12歳以上と記載されている。兵庫県警などが5月、別件で捜索した住宅で発見し、鑑定の結果、実弾が発射できる能力が確認された。
警察庁によると、この玩具銃は昨年12月以降、中国から輸入され、31道府県の78企業に卸された。同庁は7月、年内を周知期間として所持者に警察へ届け出るよう呼びかけており、全国で約2600丁(7月末時点)を回収したという。
海外製の銃器などに詳しい銃器研究家の高倉総一郎さんによると、この玩具銃は、薬きょう内の燃焼ガスの圧力が弾頭のみに集中せず、本物の拳銃ほどの威力は出ないという。ただ、「弾丸を前に飛ばせるというだけで十分に凶器となりうる」と指摘する。
読売新聞が今月19日までに九州・山口・沖縄の各県警に取材したところ、最も出回っているとみられるのは山口県の約850丁で、4割超の393丁を回収した。一方、福岡県は約810丁中71丁と1割に満たず、熊本県も約800丁のうち124丁の回収にとどまっている。流通していなかったり、流通状況が分からなかったりする県では、他県のゲームセンターで入手して提出されるなどしたケースがあった。
回収が進まない理由について、ある県警の幹部は「入手に身元の証明も必要なく、所持者の特定が難しい。見た目は明らかにおもちゃで危険なものと認識しづらいのだろう」とみる。
8月上旬に最寄りの警察署に玩具銃2丁を届け出たという山口県光市の男性会社員(34)も「実弾が発射できるなんて……」と驚く。今年初めに同県柳井市内のゲームセンターを長男(8)と訪れ、景品として持ち帰った。長男は庭で友人と段ボールに向かって弾を撃つなどして遊んでいたという。
7月中旬にニュースなどで回収対象になっていることを知り、不安になって警察署に持参した。男性は「事件に巻き込まれたり、悪用されたりすることを防げたと思えば回収に協力してよかった」と話す。
警察庁によると、国内で本物の拳銃と同様の発射能力がある玩具銃が初めて確認されたのは2022年6月。これまでにリアルギミックミニリボルバーのほかに中国製の16種類が確認されており、今年7月末時点で約1000丁を回収している。いずれもインターネットで販売され、外見はおもちゃ風だった。6月末までに警視庁や山口、福岡、佐賀など18都道府県警が銃刀法違反(所持など)の容疑で少なくとも2人を逮捕、34人を書類送検した。
警察庁は「おもちゃ風でも所持していれば違法となるので、見かけても購入せずに最寄りの警察署に知らせてほしい」としている。
玩具銃を取り扱う業界団体は自主規制に取り組んでいる。だが、クレーンゲーム人気の高まりやインターネット通販の浸透を機に、新規参入企業が相次ぎ、対策が追いついていないのが現状だ。
大手のゲームセンター運営会社など約200社が加盟する一般社団法人「日本アミューズメント産業協会」(東京)は指針で、「ゲームセンターで『心身に危害を与える恐れのある物品』を提供してはならない」と定めている。だが、協会の非加盟社には適用されず、協会の担当者は「新規参入企業に指針が行き届かず困っている」と明かす。
また、全国約100の玩具銃のメーカーや流通卸売業、小売業者でつくる「全日本トイガン安全協会」(埼玉県)は、警察の情報を確認するなどし、危険な玩具銃を取り扱わないように注意を呼びかけているという。担当者は「非加盟業者などから国内に流通してしまうと、対応が後手後手になってしまう」と話す。
銃器犯罪に詳しい立正大の小宮信夫教授(犯罪学)は「業界団体に監視委員会を設け、オブザーバーとして警察や有識者が参加すればより効果的な規制につながる」と指摘。「新規参入企業に団体に加盟するメリットなどを示し、参加を促す必要がある」としている。