軽装での登山や夜通し登る「弾丸登山」などが問題となった富士山。今年は静岡県でも入山料を徴収するなど、規制に乗り出し、静岡、山梨両県で遭難が減少した。規制との因果関係は断定できないながらも、関係自治体の担当者からは「登山者の意識はより高まったとの実感はある」との声が上がる。
クロックスで駈け降りる外国人
「昨年より軽装の登山者は少なく感じた。4000円は安くないが安全のためには妥当な金額だと思う」。毎年必ず夏には富士山登山をするという福島市の公務員の女性(38)はそう振り返った。
女性は昨年、静岡県側の御殿場ルートを登った際、下山道にある火山砂利を一気に下る「大砂走り」をサンダルの一種「クロックス」で駆け降りる外国人を目撃した。大小の砂利が登山靴の中に入らないよう砂利除けを装着する人も多い。女性は「クロックスで登ったのも驚きだが、砂がサンダルの中に入って大変そうだった」と振り返る。
静岡県は今年の夏山シーズンから、1人4000円の入山料の徴収と午後2時~翌午前3時の入山規制を開始した。
静岡県警によると、今年の同県側の開山期間(7月10日~9月10日)の遭難発生件数は36件と前年より17件減。遭難者数も28人減の36人で、前年は6人だった死者は3年ぶりにゼロとなった。
遭難の大幅減について県警地域部は「入山規制や、事前の啓発の効果が出ているのではないか」とみる。
「レンジャー」指導強化が奏功
静岡県に先駆けて山梨県は昨年、5合目に入山規制ゲートを導入し、午後4時から翌午前3時までゲートを閉鎖。今年は閉鎖開始を午後2時に前倒ししたほか、県職員の「富士山レンジャー」の権限を強化し、軽装での入山を拒否できるようにした。昨年は1人2000円だった通行料も、今年から4000円とした。
県警によると、今年の同県側の開山期間(7月1日~9月10日)の遭難は3件3人。令和5年の6件8人、6年の5件5人から減少傾向にある。地域課の担当者は「富士山レンジャーによる指導強化などの効果が出ているようだ」と指摘する。
同県富士吉田市の羽田正利・富士山課長は、遭難の減少傾向が入山規制によるものとは断定できないとしながらも、「一連の規制により、登山者の準備や装備に対する意識はより高まったとの実感はある」と話す。
同県の長崎幸太郎知事も今月10日の記者会見で「残念ながら事故はゼロではなかったが、安全性は相当程度高まったのではないか」と手応えを示した。(青山博美、平尾孝)