「私は決して犯人ではありません」工藤会ヒットマン被告(59)は全面否認…「餃子の王将」社長射殺事件の解決を阻んでいる“2つの謎”

「私は決して犯人ではありません。決してが付きます」
11月26日、京都地方裁判所は物々しい雰囲気に包まれた。傍聴人は入念なボディーチェックを受け、廷内には防弾の仕切り板が設置された。
「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長、大東隆行さん(当時72)が2013年に京都市内で射殺された事件で、殺人などの罪に問われている田中幸雄被告(59)の初公判が開かれたのだ。
「いずれも間接証拠で直接証拠がない」
「福岡に拠点がある特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部で、発生から9年後に逮捕された。当時、服役中だった別の銃撃事件では工藤会のヒットマンと認定されているが、本件では否認を続けている」(司法担当記者)
逮捕・立件の決め手は残された多くの物証だった。
「現場付近にはたばこの吸い殻2本が遺留され、唾液のDNA型が被告と完全に一致。犯行に使われたバイクの一台からは射撃残渣が検出され、もう一台の盗難現場周辺の防犯カメラには被告の幼馴染が所有する久留米ナンバーの軽自動車が映っていた。ただ、いずれも間接証拠で直接証拠がない」(社会部記者)
事件解明に欠かせない動機も依然として不明だ。
「王将の創業家一族は九州の某経営者との間に250億円以上の『不適切取引』があり、大東さんが取引解消に向けて動いていたことも分かっているが、事件との関連は不明。銃撃の指示役についても解明されていない」(捜査関係者)
検察側の立証ハードルは相当高い
実は、発生2年後にDNA鑑定結果が出てから逮捕までに7年を要している。
「京都府警はすぐにでも着手したかったが、事件の背景や動機、それに指示役が不明のままでは公判維持が難しいとして、検察がなかなか首を縦に振らなかった。最終的には最高検や警察庁を含めて協議し、ようやくGOサインが出たのが22年だった」(捜査幹部)
工藤会を長年捜査してきた福岡県警との連携不足も捜査を難航させたという。
「京都府警は現場の鑑識など地道な捜査で田中に辿り着いたが、工藤会に話を聞けるルートは脆弱で組織的関与を裏付けられなかった。最終的には合同捜査本部が設置されたが、福岡県警の捜査員からは『情報が共有されない。京都が勝手にやっているだけだ』との声が出るなどギクシャクしていた」(別の捜査関係者)
近年は「疑わしきは被告人の利益に」の原則が徹底され、被告がたとえ暴力団員であっても無罪判決が出るケースが少なくない。19年の銃撃事件で殺人未遂の罪に問われた山健組組長にも昨年、神戸地裁で無罪が言い渡され、関係者を驚かせた。
「何が無罪や、工藤会が何やねん。うちの大切なお父ちゃんを殺したんや!」
罪状認否の後、遺族女性の悲痛な叫びが廷内に響き渡った。検察側の立証ハードルは相当高いとされ、来年10月の判決が注目される。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2025年12月11日号)

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