洋上風力発電事業を巡る汚職事件で、東京地検特捜部が、秋本 真利 ・衆院議員(48)(自民党を離党)から今月中旬以降、複数回にわたって任意で事情聴取したことが関係者の話でわかった。秋本議員は、「日本風力開発」(東京)の塚脇正幸社長(64)との間で多額の資金のやりとりがあったことは認めたという。特捜部は、秋本議員の収賄容疑での刑事責任追及に向け、受領した資金の趣旨などについて捜査を進めている。
関係者によると、塚脇社長は2021年秋に秋本議員らと馬主組合を設立。同年10月~今年6月、組合に計約3000万円を支出し、うち約1000万円は22年10月に議員会館で秋本議員に現金で提供したという。秋本議員が19年に日本中央競馬会で個人馬主に登録する際にも約3000万円を一時的に提供したとされる。
秋本議員は特捜部の複数回にわたる事情聴取に対し、塚脇社長側から現金約1000万円を議員会館で受け取ったことなど、金銭のやりとりに関する事実関係は認めたという。ただ、資金の趣旨については、周囲に「馬主組合への支出がなぜ賄賂になるのかわからない」などと話しているという。
同社は、政府が進める洋上風力発電事業のうち青森県の「陸奥湾」や秋田県沖2海域などへの参入を計画したが、21年12月、秋田県沖2海域で圧倒的に安い売電価格を提示した企業連合に敗れた。秋本議員は19年2月に国会質問で「青森県でもしっかりと洋上風力が展開されるべきだ」と述べたほか、22年2月の質問では事業者選定の審査基準見直しを求めるなど、同社の参入を後押しするような発言を繰り返していた。
収賄罪は、公務員が職務に関して賄賂を受け取った場合に成立する。特捜部は、国会質問を秋本議員の職務権限と捉えるとともに、秋本議員が実質的に管理していた馬主組合に対する塚脇社長の支出には、国会質問への謝礼の趣旨が含まれているとの見方を強めている。今後も秋本議員や塚脇社長に資金提供の経緯や趣旨を追及し、全容解明を目指すとみられる。
秋本議員は12年12月の衆院選で千葉9区から出馬して初当選。現在4期目で、国土交通政務官などを歴任し、昨年8月から外務政務官を務めた。だが、今回の疑惑が発覚し、特捜部が自宅や議員会館の事務所などを収賄容疑で捜索した4日に外務政務官を辞任。翌5日に自民党を離党した。
日本風力開発の社長「馬主に誘った」
塚脇社長が特捜部の任意の事情聴取に対し、「馬主になるように秋本議員を誘った」と説明していることがわかった。競走馬への関心が高かった秋本議員は、塚脇社長の誘いに応じて19年に日本中央競馬会の個人馬主に登録し、馬の育成や出走などに深く関わるようになっていったという。
特捜部は、秋本議員に対する贈賄容疑で同社本社や東北地方の営業拠点などを相次いで捜索し、塚脇社長のほか、組合の競走馬に関わる調教師や牧場などの関係者からの事情聴取を進めている。塚脇社長は当初、「組合の持ち分を45%持っており、組合員として債務を履行しただけ。賄賂には当たらない」と容疑を否定していたが、今月11日になって「馬主組合は秋本議員のものだった」と贈賄を認める供述を始めた。
関係者によると、多数の競走馬を保有していた塚脇社長は、会社の部下や知人らに「馬主にならないか」と勧め、秋本議員もその一人だった。塚脇社長は特捜部に対しても同様の説明をしているという。