1250億円が2350億円と1・9倍に、膨らみ続ける万博の会場建設費…円安など逆風「想定外だった」「管理甘かった」

[検証・万博の現在地 開幕まで500日]<2>

10月20日、日本国際博覧会協会(万博協会)事務総長の石毛博行(72)は、会場建設費が1850億円から最大2350億円に増える見通しを公表した。直後に大阪市内で開いた記者会見で、2回目となる増額の責任を問われた石毛は「責任というのは何をもっておっしゃるのか……」と苦笑いを浮かべた。

増額は今月2日、政府が容認したことで正式に決まった。
今回、万博協会が最大で500億円も上振れする根拠に挙げた建設資材や労務費の高騰は2年前から続く。その影響は協会が発注する建設工事にも及び、昨秋以降は不成立が相次いだ入札の予定価格の引き上げを余儀なくされた。
当時について、万博協会のある副会長は「工事費の上昇を懸念して万博協会に逐一状況の報告を求めたが黙ったままだった」と証言する。
周囲の懸念をよそに、石毛は今年8月まで「1850億円の枠内に収める」と言い続けた。一転して増額を打ち出したのは約2か月後。ロシアのウクライナ侵略や急激な円安を念頭に「想定外でやむを得なかった」と弁解した。
これに対し、大阪市とともに会場建設費の3分の1を負担する大阪府の知事、吉村洋文(48)は「管理が甘かった」と謝罪した。3年前、1回目の増額を容認した時に府議会で「今回が最後」と説明したことも自分を追い込む形になった。
会場整備の進展を把握できていなかった反省から、吉村は新たな対策も打ち出した。自身が副会長を務める万博協会に対し、理事会の開催ごとに建設工事の執行状況の公開を求め、実行を確約させた。
だが、石毛も吉村も、万博協会で重要事項を決める理事会のメンバーだ。当事者意識が希薄で、対応は後手に回った。結果的に、前売り入場券の販売が始まる直前に増額が決まり、機運醸成にも水を差した。
過去の万博を振り返ると、2005年の愛知万博の会場建設費も計画時の1350億円から最終的に1464億円に膨らんだ。当時も国と開催自治体、経済界・民間で3分の1ずつ負担する仕組みだったが、追加の国民負担は生じなかった。約110億円の増額分はすべて民間で賄ったからだ。
その大半は、企業が無償で建てた会場施設を含む「現物寄付」だった。当時の万博協会の事務総長を務めた中村利雄(77)は「何度も企業を回り、協力をお願いした」と語る。

そもそも、大阪・関西万博を誘致する時点で試算された会場建設費の根拠が薄かったとの見方がある。
大阪府は16年10月、1200億~1300億円とする試算の原案を公表した。政府もこれを追認し、17年9月に博覧会国際事務局(BIE)に提出した提案書には1250億円と盛り込んだ。金額は05年愛知万博の建築コストなどを参考に算出したという。
しかし、当時の試算に関わった府市の関係者は「愛知万博の会場建設費を下回らないと国が認めてくれない恐れがあった」とし、1350億円を下回るのが前提だったと明かす。
読売新聞社が今月17~19日に実施した全国世論調査で、会場建設費が当初予定の1・9倍に増える見通しになったことについて、「納得できない」との回答が69%に上った。宇都宮大の中村祐司教授(行政学)は「『一度走り出したら止めるわけにはいかない』という政府や府・市の姿勢が、国民の認識とずれている。右肩上がりの時代ではなく、絞ることも必要だ」と指摘する。

増額が正式に決まった2日の翌日。大阪・関西万博の会場となる人工島・ 夢洲 (大阪市此花区)を初めて視察した国土交通相の斉藤鉄夫(71)は、工事に携わるゼネコンの担当者らと向き合っていた。
「上下水道などインフラ整備を急いでほしい」「3か所しかない敷地への出入り口を増やしてほしい」
施工環境の改善を訴える声に、斉藤は「初めて聞いた要望もある。対応に全力を挙げる」と強調した。
海外パビリオンの建設が遅れる中、来春には建設業の残業が規制される。工事の集中が予想され、環境整備のコストが膨らむ恐れもある。国民の思いとは裏腹に、3回目の増額への不安が消えることはない。(敬称略)

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