「放置自転車は、即時撤去します」――。こんな取り組みが11月、大阪・ミナミで試験的に始まった。大阪市ではこれまで事前に警告放送を流し、一定時間経過後に撤去していたが、ミナミは短時間の放置が多く、効果が薄かった。御堂筋の側道の歩道化など、人が集う空間づくりが進められているエリアでもあり、市はまちの魅力向上を目指し、放置自転車について厳しい対応に乗り出すことにした。(上野綾香、猪原章)
市の条例では、ミナミも含めて定めた放置禁止区域内では、市が自転車を撤去できると規定している。放置を確認してから撤去するまでの時間について明確な定めはないが、市は従来、啓発の意味を込め、放置自転車に警告札をつけ、放送で撤去を警告して数分~数十分の「猶予」を設けてから運び出していた。
しかし、ミナミではこの「猶予」が裏目に出ていたようだ。
市が9月、ミナミの13か所で放置自転車を調査したところ、自転車の利用目的は5割が買い物で、駐輪時間は1時間未満が3割、1~7時間が5割に上った。
「猶予」の間に持ち主が戻ってきて撤去を免れるケースがあるとみられ、実際に、これまでも警告放送を流している間に一時的に別の場所に自転車を移し、撤去作業後に元の場所に戻ってくる持ち主がいることも確認されていたという。
調査では、放置した理由は「すでに路上に放置されている自転車がある」が最多で、放置自転車が放置自転車を呼ぶ悪循環が起きていることも浮き彫りになった。そのため、市は初めて、即時撤去を試験実施することにした。
ミナミの放置自転車は長年の課題で、官民が4000台分以上の駐輪場を整備するなどし、改善を図ってきた。しかし、地元企業や商店などでつくる自転車対策ワーキンググループによると、新型コロナウイルス禍で、電車やバスなどに乗ることによる感染リスクを避けて自転車でミナミに来る人が増え、放置自転車も再び目立ち始めたという。
即時撤去を開始した11月13日、ミナミのアメリカ村周辺では、歩道や車道のあちこちに自転車が止められていた。市職員と委託業者が放置自転車に赤い警告札を貼り、記録として写真を撮影。すぐにトラックに積み、45分で30台を回収した。
地元の中央区周防町町会長の中村芳弘さん(61)は「放置自転車があると、歩行者が通りにくくて困っていた。再び外国人観光客も増えてきていて、誰もが歩きやすい街にするため、自転車を使う人にも協力してもらいたい」。ミナミを管轄する市建設局市岡工営所の利岡裕介課長は「いつ撤去されるか分からないという意識を持ってもらい、放置を抑止する効果を高めたい」と話す。