政府は家族の介護や世話に追われる「ヤングケアラー」の支援を法制化する方針を固めた。法律で初めて明文化する。自治体などの自主性に委ねられてきた支援に法的根拠を設けることで、対応の地域差解消につなげる狙いがある。支援の対象は子どもに限らず成人した若者(18歳以上)まで広げ、切れ目のない支援を目指す。2024年の通常国会に関連法案を提出する見通しだ。【田中裕之、山田奈緒】
政府は、ヤングケアラーを「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」と定義。引きこもり支援などを推進する「子ども・若者育成支援推進法」(09年成立)を改正し、国や自治体が支援に努める対象にヤングケアラーを加える。
政府は毎日新聞のキャンペーン報道を受け、20年末に全国のヤングケアラーの実態調査に着手した。21年5月には支援策の報告書をまとめ、全国的な支援の動きにつながった。
だが、ヤングケアラーを支援する法的根拠はなく、対策が進んでいない自治体が多いことが課題になっている。政府が推奨する地域の実態調査を完了した自治体は、全国1718市町村のうち約12%にあたる203市町村(23年2月末時点)にとどまる。政府は法制化によって、自治体の取り組みや支援に関わる機関の連携を促していく考えだ。
また、ヤングケアラーは法律上の定義もなく、国内では18歳未満の子どもと位置づけるのが主流だった。一般社団法人「日本ケアラー連盟」が「18歳未満」と定義しているほか、埼玉県が全国で初めて制定したケアラー支援条例も児童福祉法に合わせて「18歳未満」と定めている。
元ヤングケアラーや専門家からは、家族のケア負担の影響は子どもの期間に限らず、18歳以上になっても進学や就職面などで影響が続くとの指摘が出ていた。このため、政府は支援の対象年齢を18歳未満に区切る児童福祉法ではなく、おおむね30代までを含む子ども・若者育成支援推進法で法制化することにした。
ヤングケアラーの支援を巡っては国民民主党が法制化を求め、22年6月に自民、公明、国民民主の3党幹事長が必要性を検討することで合意していた。
ヤングケアラー研究者の渋谷智子・成蹊大教授の話
ヤングケアラー支援の法的根拠ができることで、行政の積極的な動きにつながると期待する。対象年齢を18歳未満にせず、大人への移行期を視野に入れて支援できる点も意義がある。
家族ケアのために生活に影響が出ている子どもや若者には、進学や金銭面の不安を軽減したり精神面のサポートをしたりするなどして、将来の選択肢を狭めないことが大切だ。行政が地域や民間と連携して支援することが望まれる。
ヤングケアラーは、世帯人数の減少や共働き化が進み、ケアを必要とする人が増えている中で、大人が子どもに頼らざるを得なくなっている家庭をどう支えるかという問題でもある。法制化を機に、若い世代が「仕事と家族ケアは両立する」と思える仕組みができていってほしい。