創価学会名誉会長だった池田大作氏(享年95)が遺したもの──。公称827万世帯組織を作り上げ、絶大なインパクトを残したことは間違いないが、残されたのは池田氏の「遺産」の行方と空席になった「ポジション」がどうなるのか、という難題だ。ノンフィクション作家・広野真嗣氏がレポートする。【前後編の前編】
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写真には、創価学会名誉会長の池田大作氏とエプロン姿の妻・香峯子(かねこ)氏(91)の姿がある。元学会本部職員から提供された数葉の写真群に含まれていた。昭和のお茶の間の一枚だが、違和感を拭えないのは池田氏の背後にある3台もの壁掛け電話である。
コードの弛緩具合からして、右側の1台が普段使いの機材だろうか。本部の隅々まで指示を飛ばすには1台では足りないということか? そんな疑問が次々と湧いた。香峯子氏が2005年に著した『香峯子抄』にこう記されている。
〈わが家のいちばん大事なことは朝夕の勤行です。主人がいるときは全員で(略)朝の七時には必ず集まってやりました。(3人の息子のうち)一人来なければ、ピッとベルを鳴らして「勤行ですよ」と声をかけました〉
〈小さな狭い家ですが、各部屋につけてあるインターホンで、「パパがお帰りよ」と声をかけます〉
写真左の機材がその〈インターホン〉かもしれないが、ダイヤル付き電話がもう1台ある。写真提供者の元職員が語る。
「20年ほど前に組織活動を手伝うなかで手にした写真ですが、改めて見ると異様です。最高幹部の部屋や身の回りの世話をする第一庶務室への連絡用だったのでしょうか」
昭和の団欒と巨大組織の頂点とが共存するこの自宅は学会タウン・信濃町(東京・新宿区)の一角に今も建つ。所有者の死で注目されるのは、残ったこうした遺産の行方だ。巨大教団の指導者として築き上げてきた財産は一体、どうなるのか。
香峯子氏は〈小さな狭い家〉と書いたが、JR信濃町駅から徒歩5分、延べ床面積344平方メートルの一軒家をそう表現されると、ツッコミを入れたくなる。
この土地建物を池田氏が教団から買ったのは1974年。古い木造家屋の資産価値を棚に上げても、463平方メートルの土地は、路線価を8割で割り戻して計算すると、その価値(時価の目安)は約4億6000万円にもなる。
池田氏は宗教家であると同時に、学会を公称827万世帯の組織にまで育てた“起業家”の一面も併せ持つ。学会員という市場に向けて全150巻の『池田大作全集』や全30巻の『新・人間革命』といった著書を次々出版。印税収入を確保してきたとされる。そんな起業家の財産としてはどうか。