能登半島地震、日航機と海保機の衝突事故。年明けから大変な出来事が続く。一方で年末にギョッとした新聞記事があった。絶対に忘れてはならないと痛感したので、ここに記しておきたい。それは朝日新聞がジャニーズ報道について「検証」した記事である。
『ジャニーズ報道、問われる「沈黙」 朝日新聞「メディアと倫理委員会」』
というタイトルで昨年のクリスマスに出された。
触れ込みはこうだ。故ジャニー喜多川氏による性加害問題は昨年3月に英BBCの番組が問題提起するまで、日本の新聞やテレビが大きく報じることはなかった。こうした「マスメディアの沈黙」が被害の拡大を招いたと指摘された。
《朝日新聞はなぜ、報じることができなかったのか。社内の関係者から聞き取ったうえで、12月、「メディアと倫理委員会」の有識者委員に問題点や課題を議論してもらった。》(2023年12月25日)
「天声人語」筆者の言い分に仰天
記事を読んで私が仰天したのは、2019年7月にジャニー喜多川氏が死去したときの報道についての「聞き取り」である。
当時の状況を整理すると、朝日新聞は朝刊1面で死去を報道した。生前の人となりや功績を伝える「評伝」を社会面に載せ、「男性アイドル育成 光と影」という見出しの別稿を添えた。別稿では、裁判でセクハラについての記事の重要部分が真実と認定されたことに言及した。
死去の翌々日、朝日の1面コラム「天声人語」はジャニー喜多川氏を好意的に取り上げて性加害については触れなかった。その点について今回聞き取りがされたのだ。すると「天声人語」筆者の答えが凄かったのである。
《筆者は「セクハラ疑惑のことは頭の隅にあった。しかし、訃報(ふほう)を受けてすぐに載せる新聞コラムで、正面からその点を論じることはしなかった。(執筆当日の朝刊に載った「光と影」の記事は)読み落としていた」と答えた。》
えーー、記事を「読み落としていた」!? そんな馬鹿な。あ然とする答えである。
というのも、私ですらその「光と影」の記事は読んでいたからだ。重要だと考えていたので昨年4月18日の当コラムでも紹介していた。このときは元ジュニアのカウアン・オカモト氏が告発会見をした後であり、新聞がどう報じたのかコラムを書いたのだ。
以下抜粋する。
〈 実はジャニー氏が亡くなったときの報道も気になっていた。朝日の「評伝」はアイドルの原石を見抜く力は天才的というジャニー氏の功績に続き、後半に「男性アイドル育成、光と影」という小見出しがあった。
《一方、1999年には所属タレントへのセクハラを「週刊文春」で報じられた。文春側を名誉毀損(きそん)で訴えた裁判では、損害賠償として計120万円の支払いを命じる判決が確定したが、セクハラについての記事の重要部分は真実と認定された。》(朝日新聞2019年7月10日)
あの裁判で重要視されたのがジャニー氏の証言だ。少年たちの性的虐待についての告白に対し、法廷で「彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」と述べていたのである。〉
ジャニー喜多川氏の訃報記事にも注目
いかがだろうか。ジャニー喜多川氏は法廷という公の場で性加害の否定をしていなかったのである。朝日新聞はこのことを喜多川氏の死去を伝える記事で書いていた。なら、もっと「影」(性加害)の部分について言及すればよかったのでは? という思いを当時抱いた。それが著名人の訃報を伝える記事の役割だろうと。しかし逆に、死去翌々日の天声人語は好意的な内容に終始した。
今回その理由を聞かれたら「光と影」の記事は読み落としていたというのである。信じられない。つまり天声人語を書いている人は朝日新聞を読んでいないということか?
念のために言っておくと新聞を一字一句全部読んでないのか、とツッコんでいるのではない。自分がその日に書く題材(ジャニー喜多川氏の死去)についての記事を読んでないのか? という驚きなのである。自社が喜多川氏について何を書いているか読むのは当然だろう。天声人語の筆者はそんな作業すらせずに書いていたようなのである。
皮肉を言えば天声人語のエラそうで独善的なあの感じって、ろくにリサーチもせずに独りで好き勝手に書いているからなのか。そんな答え合わせが今回できたかも。
気になるのは聞き取り調査をした側も同様だ。天声人語の筆者がぬけぬけと酷い言い訳をしているのにそれ以上は何も聞いていないのだ。なんだそれ。
海外メディアはどう報じたか
ちなみに2019年7月にジャニー喜多川氏の訃報を海外メディアはどう伝えたか。イギリスの公共放送であるBBCはジャニー氏の業績にも触れつつ、
《一方で、物議をかもす人物でもあった。どれも証明されなかったが、パワハラと性的虐待の告発が繰り返された。ジャニーズ事務所は業界であまりに圧倒的な存在だったため、ジャニー喜多川氏を批判することはほとんど不可能だった。強大なジャニーズ事務所を脅かそうと挑む人は、日本の主要メディアには皆無だった。》(2019年7月10日)
と書いていた。ジャニー喜多川氏ばかりか「ジャニーズ事務所と日本の主要メディア」についても指摘していた(※これも2023年4月18日の当コラムで紹介している)。
この報道から4年後(昨年)にBBCは喜多川氏についてのドキュメンタリー番組を放送し、それがきっかけで日本の主要メディアも喜多川氏の性加害問題を報じることになった。こうしてあらためて読むと示唆的でもある。
朝日新聞の「まとめ」は…
さて、今回の朝日新聞の「検証記事」は角田克・専務取締役コンテンツ統括がまとめとして、
「朝日新聞は社会における『炭鉱のカナリア』であらねばならないとの思いを新たにしました。」
と冬休みの宿題の感想文みたいなものを書いて終わっている。これをしれっと年末に出して終わっている。実際、これを書いてゴキゲンなお正月休みに突入したのだなとの思いを新たにしました。おしまい。
(プチ鹿島)