消防団のなり手がいない 高齢化で地域防災力に黄信号「住民の命や財産守るために」 地域と消防団(中)

道路に埋められた消火栓を点検するその目は、地域住民の安全につながっていた。相模原市緑区の田園地帯にある住宅地。市消防団員の森井重雄さん(53)らは休日の朝、赤い消防車に乗って地区を回り、消火栓の確認作業に当たっていた。
消火栓を確かめる
産業機械メーカーの工場に勤める森井さんは、相模原市消防団の通称「又野消防団」に所属する。地区の住民ら12人で構成され、月2回の定期点検に従事。消防車に配備された消防ポンプや詰め所に置かれた発電機、チェーンソーなどの動作確認を行うほか、地区に19カ所ある消火栓の点検も欠かせない。
消火栓は地中を通る水道管と接続しており、消火活動に必要な水を供給する設備。点検では、路上の重い鉄ぶたを十字型のバールを使って開け、開閉用の器具で栓を開く。水があふれ出てくるのを確認し、再び栓を閉める。閉め方が中途半端だと水がたまって路上へあふれ出すため、腰を入れてぎゅっと閉める。重労働だ。
消防団というと、火災などへ出動するイメージが強いが、実際に火を消すことは少ない。「常備消防」と呼ばれる消防署の体制が充実し、火災現場へ一番先に到着するのが消防団ということは、特に都市部ではまれになっているからだ。
「代わりに消防団の役割として重要なのが、日ごろの点検活動になる」と森井さんは話し、続けた。
「いざというとき、鉄ぶたの周囲に砂利が詰まっていたりしてふたがなかなか開かなければ、消防士たちは消火栓を使えない。ふたを開けても消火栓が開かなければ、水を出せない。住民の命も財産も守れない」
休日の朝、点検活動は続いた。開閉用の器具を握る手に力がこもった。
団員を「リサイクル」
地域の防災活動を担う消防団だが、なり手不足と高齢化が深刻化している。
総務省消防庁によると、かつて200万人以上いた全国の団員数は平成2(1990)年に100万人を切った。令和4年には80万人を割り、5年4月時点で約76万人。全国の市町村が条例で定める定数約88万人に対し、12万人足りない。
また、30年前の平成5年は39歳以下の団員が全体の7割を占めていたが、若手の割合は年々減少。昨年は39歳以下が約37%にまで低下し、40歳以上が6割以上に上る。
背景には日本社会の高齢化、日本人の意識やライフスタイルの変化がある。内閣府の24年の世論調査では、消防団への入団意向について「入る」が13%、「入らない」が73%だった。入らない理由は「体力に自信がない」「高齢である」「職業と両立しそうにない」が上位を占めた。
地域社会のつながりが薄れるなどして新規の入団者が少ない中、近年は高齢化で退団者が増えている。いきおい、一般団員から班長、副部長、部長…などと昇格した人が、やめたくても後任がいないためやめられず、再び一般団員へ戻って消防団を続ける場合も出てきている。
団員の「リサイクル」と呼ばれる。
操法は「阻害要因」か
若い世代の消防団離れの一因として挙げられるのが「消防操法大会」だ。消防団員が放水動作を競うもので、消防ポンプの使い方などに習熟することを目的に約100年前に編み出された。
「火点」と呼ばれる的に向かって放水し、動作の速さや正確さ、「礼式」と呼ばれる規律の正しさなどを競い合うものだが、競技内容が実践的でないとの批判や、大会向けの訓練が団員の負担となっているとの指摘が根強かった。
新型コロナウイルス感染拡大のため、各地で相次ぎ中止や延期となったのをきっかけに、見直しが進み、総務省消防庁の有識者検討会が令和3年にまとめた報告書は《操法大会を前提とした訓練が大きな負担となり、幅広い住民の消防団への参加の阻害要因となっている、という指摘もある》と言及した。
同庁は翌4年4月、その年の全国大会から、外見的な要素を審査基準から除き、ホースの制御姿勢をより安全な持ち方にするなど基準を改めた。
「仲間がいるから」
森井さんが所属する相模原市消防団でも、昨年10月に4年ぶりに行われた市の大会から、国が示したルールにのっとる形で実施された。その過程では、消防団幹部らの間で次のような議論もあったという。
「礼式ができなかったら、部隊活動が成り立たない」「規律は活動の安全の根幹であり、操法はそれを学ぶ機会ではないのか」
一方、昨年の市の大会では、強豪と呼ばれる消防団が欠場した。中山間地域で新住民が入ってこない中、毎回同じ団員が大会へ出場してきたが、「年齢的に厳しい」「仕事や家庭との両立が難しい」との声が上がったためという。
市消防局消防総務課の消防団班、多和田真貴担当課長(49)は「地域の問題というか、こうした負担感を訴える声が出てきたことを、重く受け止めている。操法についてはさまざまな聞くべき意見があり、なかなか結論が見いだせない。常に試行錯誤を重ねている」と話す。
又野消防団の森井さんは消防団歴30年の大ベテラン。駐車場を借りにいった不動産会社で誘われたのがきっかけで、「社会貢献するのも、いいかな」との気持ちから参加したという。
なぜ、休日の朝の重労働もいとわず、30年も続けてこられたのか。森井さんはこう答えた。
「やっぱり仲間がいるからかな。活動後の仲間とのコミュニケーションは何よりの楽しみで、かけがえのないもの。ただ単に活動して、終わったら解散では、ここまでやってこられなかったと思う」

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