「想定外にもほどがある」 被災しても助けが来ない“孤立集落” 行政に頼らない「備え」を始めた住民も

災害時、だれも助けに来られないかもしれない「孤立問題」。能登半島地震では至るところで道路が寸断し、多くの孤立集落が発生しました。こうした中「行政に頼らない」と決め、備えの見直しを始めた住民たちもいます。
がけが崩れ、いまだに通行止めが続く幹線道路。能登半島地震で孤立した集落の復旧は進んでいません。
約700人が暮らしていた石川県輪島市の南志見(なじみ)地区は、道路が寸断したため集落が孤立。電気、水道、それに携帯電話も使えなくなりました。
地元の人によると、住民の7割以上にあたる約500人が2か所の避難所に詰めかけ、その生活は「極限状態」に…。
(南志見地区の住民)「長期での見通しじゃなくて、目の前の(あすの)食料をどうするか」

「寝るにもろくなものがなくて寝られない」「原始時代に戻ったかと思うくらい、悲惨なものでした」
食料の備蓄はすぐに底をつき、十分な支援も届かない中、住民は、それぞれの自宅から食材を持ち寄ってしのぎました。
南志見地区に住む市議会議員で、避難所運営にも携わった大宮正さん(73)は「孤立を想定した備えはしていなかった」と振り返ります。
「マジどうしようもない。想定外にもほどがある」
(輪島市議会議員 大宮 正さん)「こんな災害なんて、みんな想定していなかった。地区をあげて700人が全部避難しないといけない状況なんて全く考えていないし、輪島市も全く思ってないし、マジどうしようもないわ。想定外にもほどがある」
「集落全体」で避難しなければならない、きわめて異例の「集団避難」で孤立は解消しましたが、約270人の住民をまとめて避難させることができたのは、100キロほど離れた金沢市の体育館でした。
東海地方の私たちが脅威に直面する南海トラフ巨大地震では、国民の半数が被災すると予想され、支援を待つどころか「集団避難」の受け入れ先など期待できるはずがありません。
東海地方で孤立集落の問題が注目されたのは、2020年7月の豪雨でした。岐阜県では最大17の地区で3400人以上が孤立したため「孤立予想地域」を指定し、対策を急ぐことに。
人口300人ほどの高山市岩滝地区は、岐阜県が指定する災害時の「孤立予想地域」のひとつです。
岩滝地区は高山市街地から10キロほど東の山あいにあり、地区の外につながる道路は3本、高山市街地につながるのは1本しかありません。それらがふさがると、地区は「陸の孤島」になってしまいます。
常につきまとう「孤立への不安」
高山市街地とを結ぶ道路の脇には、急斜面が続きます。
(岩滝まちづくり協議会 木谷 幸司さん)「この道を作るときに、山手側に切り開くしかなかったんでしょうね」
地区の防災の中心メンバー、木谷幸司さんに「急所」となる場所を案内してもらいました。
(岩滝まちづくり協議会 木谷 幸司さん)「特にここの斜面なんか、私素人ですけど、きっとこれは落ちてくるだろうなと思うんです」
あちこちに土砂災害防止のフェンスも設置されていますが、よく見ると普段から崩れているのか、小さな岩がたまっていました。地元の人が「白土」と呼ぶ、もろい土に覆われ、地区全体が土砂災害警戒区域に。「孤立への不安」は常に隣り合わせです。
2020年7月の豪雨で岩滝地区は孤立こそしませんでしたが、至る所で土砂崩れや、土石流に見舞われました。このとき、行政や学校の担当者が地区外から駆け付けるのに時間がかかり、せっかく備蓄してあった物資を使うことができなかったのです。
これを機に、住民の防災への意識が大きく変わりました。
(岩滝まちづくり協議会 木谷 幸司さん)「行政に頼る時代はもうダメやなと。何でもかんでも市役所にやってくれって頼みにいったって、いざってときは解決はできない」
住民が始めた「行政に頼らない孤立対策」
そこから始まったのが「行政に頼らない」孤立対策。
岩滝地区ではまず、住民の話し合いで、避難するのに支援が必要な住民が暮らす家を赤で地図に示し、いざという時に誰が助けに行くかを決めました。
そして、病状や血液型など、地区のほぼ全員の個人情報を集めた一覧表を作成。また、岩滝地区にはもともと食料を中心にした市の備蓄がありましたが、孤立を想定し、3か所ある公民館に食料だけでなく大量の発電機などを自分たちで買い足しました。土砂崩れとともに、電線が切れるリスクが高いからです。
(岩滝まちづくり協議会 木谷 幸司さん)「これが切れてしまうと、全部岩滝が停電してしまう。地元の人は心配しているんです」
市が設置したソーラーパネルを活用するほか、住民も定期的に避難訓練にあわせて、発電機の使い方を学んでいます。地区では断水しても山水が利用できるため、2、3日の避難には十分耐えられると話します。
しかし、能登半島地震で新たな心配が生じたというのです。
「足りるか」能登半島地震で感じた不安
(岩滝まちづくり協議会 木谷 幸司さん)「能登半島地震が起きて、地震が起きたらそれこそ(岩滝は)危ないなという状態なんです。初めは(水害の孤立で)2日か3日使えるようにと思ってましたが、能登半島地震のことを考えると、もっとたくさんの物を用意しておく必要がある」
能登半島地震が呼び起こした、「地震」での孤立の危機感。住民はさっそく、備えの見直しの話し合いを始めました。岩滝地区は南海トラフ巨大地震では震度5強、直下型地震では最大で震度7の揺れが予想されています。
(地元住民)「それだけ(いまの備蓄)で足りるか。当然、市街地から復旧にかかる、申し訳ないけど、ここは多分遅いと思う」「あそこのトンネルがなくなったら、今度は余計さらに道なんか少なくなる」
これまでの備蓄は夏場の大雨を想定していたため、毛布やストーブなど、冬場の備えはまったく足りていません。また、水害に比べて孤立が長期化することが予想されます。
(地元住民)「(訓練で)あったかいものが食べれられるのか。その体験を大人がしてないと提供できない」「ガスつなげるって何か資格いるんでしょ?」「危険物?」「何か(資格が)いるんですよね?」
岐阜県は岩滝地区を含め、28の市町村で639ある孤立予想地域それぞれに、備蓄量などをまとめた台帳をつくっていますが、県が把握している数字にはゼロが並ぶところも。備えは質・量とも、地域ごとに取り組みの差が大きく出ているといいます。
(岐阜県防災課 土屋 彰宏 地域防災支援監)「これを解消しようとすると、根本的なハード対策(道路整備など)が必要になってくる。取り組んではいるが解消にはなかなかつながらないのが現状」
能登半島地震で孤立したのは、最大で24の地区の約3300人。南海トラフ巨大地震では、これがケタ違いの人数になるのは想像に難くありません。
能登半島地震で孤立を経験し、輪島市の市議会議員でもある、南志見地区の大宮さんも、想定外の災害に「ハード面の備え」では限界があると感じています。
(輪島市議会議員 大宮 正さん)「こんだけの地震あったら、どんな道作ってても多分ダメやと思う。どんなことしていても、多分今の現状になったと思う。備蓄なんてあんまり意識なかった。もっともっと意識した防災対策をしておかないといけなかった」
巨大地震で「生き残る」ことはもちろん、そのあとをどう「生き延びる」か…。行政に頼らない、備えの見直しが始まっています。
2024年3月6日放送 CBCテレビ「チャント!」より

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