2023年11月末までのツキノワグマの目撃等情報は161件。そのうち、八王子市が22件、あきる野市が18件、青梅市が17件……。ここでは着実に都会に近づきつつある「熊被害」の実態について紹介。宝島社による新刊『 アーバン熊の脅威 』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/ 後編 を読む)
◆◆◆
「緊急事態宣言レベル」の熊被害
2023年ほど多くの日本人が熊に怯えた年はないだろう。環境省の統計によると、同年4~10月までの全国の熊による人身被害は速報値で180人にのぼり、これまで最も多かった2020年度の158人を上回り、過去最悪を更新した。
例年、熊は9月頃が最も動きが活発で、以降は目撃情報が減少していくはずなのだが、温暖化の影響なのか、ドングリの不作で餌が十分に確保できないなどの要因で、2023年は10月になってから逆に出没数が増加。10月だけで71人が熊被害に遭うという異常事態となった。
人身被害が起きたエリアは18道府県に及び、死者数も5人(岩手県2人、北海道、富山県、長野県がそれぞれ1人)と、過去最多の2021年度などに並んだ。そのなかでも秋田県は61人、岩手県は42人と被害者数が飛び抜けて多く、両県だけで被害件数の6割近くを占めている。
とくに秋田県は「緊急事態宣言レベル」といわれるほど被害が増加し、これまで最多だった2017年度の20人から約3倍になっており、県担当者はこの異常な状況について「餌となるブナの実が大凶作で餌を求めて人里に出没しているのではないか」と分析している。
今までの常識であれば、北海道に生息する凶暴なヒグマと違い、本州や四国にいるツキノワグマは人間との軋轢を避ける傾向が強く、遭遇すること自体がまれで襲撃される可能性も極めて少ないとされていたが、その常識が通用しなくなっているのだ。
その他、ツキノワグマの被害件数は福島県で13人、青森県で11人、長野県で10人、新潟県と富山県で各7人などが上位で、東北や中部地方での熊被害が目立つ。しかし、今までほとんど熊被害が確認されていなかった島根県や山口県でも今年は被害が報告されている。
1990年代まで、島根と山口における熊被害はほぼ皆無だった。しかし、現地の医療関係者によると、2000年以降は熊の襲撃による外傷で病院に運び込まれる人が少しずつ増えていたといい、2023年は増加傾向が顕著になっているという。一部では「ツキノワグマは関門海峡を泳いで渡る能力がある」と指摘され、熊が絶滅したといわれている九州にまで生息域を広げる可能性がある。
「都会に住む人間」も例外ではない
東京都も例外ではない。都の集計によると、2023年11月末までのツキノワグマの目撃等情報は161件。奥多摩町が66件と最も多く、次いで檜原村が23件となった。
これだけ見ると「東京といっても多摩地域の山間部だけの話でしょ」と思ってしまうが、八王子市が22件、あきる野市が18件、青梅市が17件にのぼっており、着実に熊は都会に近づいてきている。
研究者の指摘では「東京都内に生息している熊は増加傾向で安定しているとみられる」とされ、今後さらに東京での出没例が増えていきそうだ。
〈 「遺体はほぼバラバラ」人間が“ヒグマの保存食”にされてしまう痛ましい事件も…「熊は人を食べない」定説が崩壊した理由 〉へ続く
(別冊宝島編集部/Webオリジナル(外部転載))