「節税」と偽り脱税指南、容疑のコンサル経営者150億円集金…税理士お墨付きで企業が契約

節税できる上に手数料も入る。しかも税理士のお墨付き――。そんな「甘言」を用い、企業と名ばかりの業務委託契約を結ぶ手口で脱税を指南していたとされるコンサルティング会社の経営者が東京地検特捜部に法人税法違反で逮捕・起訴された。自ら考案し、全国の企業から150億円を集めるに至った「錬金術」の実態に、関係者の証言などから迫った。(徳山喜翔、萬屋直)
実質は貸付金

「業務委託だから経費に計上できて、節税になります」。東京都内で二つの不動産会社を営む社長は、知人の税理士を介して知り合ったコンサル会社「ネクストイノベーション」(現ライズオール)の実質経営者・首藤弘被告(43)からそう言われ、契約を勧められた。
それは、首藤被告が代表取締役を務める別のコンサル会社「ボーノ」から、不動産会社が「電気料金の削減に関するコンサルの営業活動」を受託し、そのままネクスト社に再委託する内容だった。不動産会社は再委託料を経費に計上できる一方、ネクスト社が営業で顧客を獲得すると、ボーノ社から「手数料」が支払われるので、再委託料を数年で回収し、さらに利益も得られる、というのだ。
社長は税理士から「よい節税策」との助言も受け、契約を締結。おかげでコロナ禍の2020年7月期と同年9月期に2社で計約7900万円を「節税」できた――はずだった。ところがコロナ禍が収まった頃、国税当局から調査される事態になった。
検察・国税当局はネクスト社への再委託に実態はなく、実質は「貸付金」だったと判断した。首藤被告と共謀し、経費と装って所得を圧縮したとして、社長は今も在宅のまま特捜部の捜査を受けており、「脱税ではないかとも思ったが、『節税だから大丈夫』と言われてやってしまった」と、周囲に後悔を漏らしているという。

300社と契約

民間信用調査会社などによると、首藤被告は熊本県の私立高校を卒業後、都内の大手通信会社に入社。やがて飲料水宅配サービスの会社を創業するなど実業家の道に入り、12年にボーノ社を設立した。
折しも電力自由化が段階的に進んでおり、首藤被告は、電力会社との交渉で電気料金を削減するコンサル事業を営むとともに、ネクスト社を再委託先に使った問題の「節税ビジネス」を展開。「42か月で109%の回収」「12年間税務否認なし」といったキャッチコピーで全国の企業に営業をかけ、税理士らに紹介料を支払って顧客の紹介を依頼した。事業を信用させるため、ネクスト社の事務所を案内することもあった。
コロナ禍でモノが売れなくなると、節税や手数料収入を望み、契約する企業が相次いだ。最終的には首都圏や関西などの計約300社と契約し、約150億円を集めた首藤被告。契約先が増えるにつれ、高級ブランド品を身につけて出社するなど生活が派手になったという。だが実際は別の企業から得た再委託料を手数料に回す「自転車操業」状態で、被告を知る会社役員の男性は「利益を追求し過ぎ、犯罪スレスレのことをやっているように感じていた」と話す。
22年2月に始まったロシアによるウクライナ侵略で原油高になると、電気料金は上昇する一方となり、交渉で料金を下げるコンサル事業が成り立たなくなった。手数料支払いが滞り、企業からは損害賠償などを求める訴訟を起こされ、社内関係者も首藤被告と連絡が取れない状態に。ネクスト社元従業員は取材に、「昨年春頃から給料が支払われなくなり、事務所も強制退去させられた」と明かした。
首藤被告は、不動産会社の件も含めて法人税計約2億円を脱税した容疑で先月から今月にかけて特捜部に2度逮捕され、脱税の事実を認めているという。だが企業から集めた資金の大半は現在も戻されていない。

大きな代償

電力自由化、コロナ禍といった時流に乗って拡大し、失墜した「節税ビジネス」。企業がこぞって契約した背景には、税理士などのお墨付きもあったとされる。
顧問先企業に首藤被告を紹介したという税理士の一人は取材に「グレーだとは思ったが、よくチェックせずに勧めてしまった」と打ち明けた。顧問先は再委託料として支払った数千万円を経費計上したものの、税務調査で認められず、追徴課税される見通しだという。
不動産会社社長に助言したとされる税理士に対しても所属先の税理士法人を通じて取材を申し込んだが、16日までに回答はなかった。
ある検察幹部は「『節税』の仕組みを理解しないまま話に乗ると、大きな代償を払わされることもある」とし、「企業は誘い文句をうのみにせず、税務当局の意見を聞くなどして慎重に判断すべきだ」と指摘した。

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