東京女子医科大学の女帝・岩本絹子理事長(77)をめぐる「疑惑のカネ」に、捜査のメスが入った――。
3月29日、警視庁捜査二課は、女子医大の理事長室がある建物や岩本氏の自宅など、関係先の10カ所以上を一斉に家宅捜索した。
容疑は、女子医大の同窓会組織「至誠会」の元事務長の男性(55)が、勤務実態がない元職員の女性(51)に対して約2000万円の給与を支払った、特別背任(一般社団法人法違反)である。女性は約10年前から岩本氏の秘書を務め、元事務長と共に忠実な側近だった。
贔屓の宝塚元トップスターの親族企業と1億円超の不可解な契約
元検事の落合洋司弁護士は次のように解説する。
「知能犯事件は、容疑が確実な『入口事件』から着手して、重要な関係者から証言を引き出し、証拠を固めます。今回が『入口事件』だとすると、警視庁は先にある大きな金額の事件を本丸と考えているでしょう」
本丸は岩本氏と見て間違いないだろう。週刊文春では2022年4月、岩本氏が贔屓にする宝塚歌劇団元トップスターの親族企業と、女子医大が1億円超の不可解な契約を結んでいたことをスクープした。この契約は、至誠会から報酬を得ている先の側近2人が、元宝塚女優の親族企業スタッフとして働いたと称して、女子医大に1億円超を支払わせていたものだ。
報道を受けて、女子医大OG(卒業生)有志らが、去年3月に岩本氏を背任容疑で警視庁に刑事告発した。これが今回の家宅捜索に繋がっている。
収益性の悪い小児ICUを解体、2022年9月には死亡事故も
創立者一族の岩本氏は、佐賀・唐津の出身で1973年に女子医大を卒業。大学には残らず、1981年に東京・江戸川区で産婦人科医院を開業した。2013年に至誠会会長に就任、2019年に女子医大理事長の座に就く。だが、内部の評価は芳しくない。
「コロナ禍で職員のボーナスゼロを宣言、研究費を大幅にカットするなど、現場を無視した岩本理事長の経営方針に嫌気がさして、医師や看護師が大量に辞めてしまいました」(女子医大医局長の医師)
かつては国内最高レベルの名門だった女子医大だが、いま深刻な医師不足と看護師不足に陥っている。病床稼働率は50%前後、経営危機が迫っている状況だ。
2014年、女子医大病院のICUで鎮静薬プロポフォールを過剰投与されて、2歳男児が死亡する重大な事故が発生した。再発防止策で「小児ICU」が設置されたが、経営陣は収益が悪いとして事実上解体した。さらに成人ICUも専門医9人が退職して崩壊状態に陥り、2022年9月に死亡事故が発生した。患者の命を蔑ろにした岩本氏ら経営陣の責任は極めて重い。
警視庁の捜査で「疑惑のカネ」の真相に迫ることができるのか、注目したい。
(岩澤 倫彦/週刊文春 2024年4月11日号)