通訳で渡航したはずが業務は投資詐欺目的の日本語文章チェックだった…詐欺に加担の49歳被告

佐賀県警が摘発したカンボジアを拠点にした特殊詐欺事件で、詐欺罪に問われている男(49)が、いつの間にか事件の一端を担うようになった状況が公判で浮き彫りになっている。通訳の仕事と紹介を受けて渡航したが、現地で実際に与えられた業務は、SNSで“投資”を誘う日本語の文章のチェック。東南アジアで特殊詐欺事件に加担させられる事件が相次いでおり、外務省は異例の注意喚起を行っている。(上本虎之介)
起訴状によると、男は昨年4~5月、氏名不詳者らと共謀し、SNSでうそのFX(外国為替証拠金)取引に関する話を持ちかけ、佐賀市などの4人からそれぞれ現金20万~3500万円を詐取したなどとされる。
事件の舞台は、日本から約4000キロ離れたカンボジア。現地警察などは昨年5月末頃、世界遺産アンコールワットに近いタイ国境付近のホテルに踏み込み、男を含む日本人7人を拘束した。警察庁の捜査関係者が同7月に現地に赴き、男らが使用していたパソコンなどを確認。その後送還された男ら3人が佐賀県警に逮捕された。
男の公判は1月、佐賀地裁で始まった。検察側の冒頭陳述によると、男は2022年8月頃、知人からカンボジアでの通訳業務を紹介され、9月頃に入国。しかし、その後は、中国人の指示を受け、投資に関する日本語の文章の誤記を訂正する作業を行い、入金を促す内容のものもあったという。
弁護人によると、出国前には、給料や業務内容、労働時間などが明記された契約を交わした。弁護人は「疑いにくいまともな契約書だった」と強調。だが、現地では、“投資”を誘う男の音声を録音するようにもなった。

事件では、巧妙な手口や中国人グループの実態の一端も浮かぶ。検察側の主張によると、「資産運用教室」という名のSNS上のグループに日本人を招待。「投資顧問」を名乗る架空人物をでっちあげ、複数の日本人名のアカウントから「顧問のアドバイスのおかげで投資に成功した」などとメッセージを送り、FX取引を行うように誘導して、入金させていた。また、拠点のホテルにいた中国人は100人以上。それぞれの机上にパソコンが備えられていたという。
外務省「加害者にならないで」

外務省はホームページ(HP)で、東南アジアで特殊詐欺事件に加担させられた結果、現地警察に拘束される事案が発生しているとして、「加害者にならないために」と題して注意を呼びかけている。HPでは「海外で短期間に高収入」などと誘われて海外に渡航し、加害者になるケースがあるとしている。
海外に拠点を置く特殊詐欺グループの摘発も相次ぐ。カンボジアの首都プノンペンから日本に電話をかけて金をだまし取ったなどとして、埼玉県警などは昨年11月、拘束した現地警察から身柄の引き渡しを受け、日本人25人を詐欺容疑などで逮捕。ベトナムやタイを拠点にしたグループも摘発された。
昨年12月、水戸市で開かれたG7(先進7か国)の治安維持担当閣僚らによる会議でもこうした問題が議題となり、各国が協力して詐欺グループを追跡することなどを確認した。

「慎重に考えるべきだった」

男は勾留先で3回取材に応じ、「チャンスが来たとカンボジア行きに飛びついたが、慎重に考えるべきだった。行かなければ良かった」と後悔を口にした。
男と弁護人によると、男は米国の大学を卒業後、会社勤務を経て、台湾の大学院に進学。その後、バス会社などからの依頼を受け、通訳として働いた。新型コロナウイルスの影響で仕事がなくなり、2022年8月頃、知人を通じて紹介された仕事がカンボジアでの通訳だった。男は「中国語と英語ができるので、語学力を武器に活躍できると思った」と振り返る。
だが、入国後に「ビザを取得するため」と言われて預けたパスポートは返却されず、体調を崩しても帰国は許されなかった。英語を使う機会もなかった。「おかしな点はあった」とうなだれ、被害者には「誠心誠意、謝罪していくことしかできない」と力なく語った。
一方、弁護側はこれまでの公判で、認否を留保してきたが、次回公判で「だます気持ちはなかった」と無罪を主張する方針。

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