「日本はこれからレアアースに困らない」首相発言に第一人者が「いいかげんにしろ」 超遠隔地・南鳥島沖の深海底資源、引き揚げより肝心なのは…

東京都心から1900キロ以上離れた東京都・南鳥島沖で2月1日、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」が水深5600メートルの深海底からレアアースを含んだ泥を吸いあげることに成功した。これまでの研究で「レアアース泥」が大量に存在するとされていた海域だ。
レアアースは電気自動車や風力発電のタービン、ミサイル誘導装置などの防衛装備に至るまで、現代の工業製品に欠かせない資源。だが世界一の生産力を誇る中国は輸出を外交カードに使い、消費国の日本には不安が広がっている。
衆院選の期間中にもたらされたニュースに、高市早苗首相は街頭演説で「日本はこれから今の世代も次の世代もレアアースには困らない」と訴えた。だがコストや実用化の可能性の検討も済んでいない段階で楽観論を広める政権に、レアメタル(希少金属)やレアアースの研究に長年取り組んできた東京大学生産技術研究所教授の岡部徹さんは「いいかげんにしろ」とあきれる。レアアース資源の問題はどこにあるのか、どうすればいいのか。岡部さんに聞いた。(共同通信=岩村賢人)
インタビューに答える岡部徹教授=2月22日、東京都目黒区
▽中国とは勝負にならない
レアアースは現代の先端技術に不可欠な17種類の元素をまとめた呼び名だ。例えば、ジスプロシウムやテルビウムは高性能な永久磁石に少量添加すると高温環境でも磁力が落ちなくなり、電気自動車のモーターの耐久性を高めるのに一役買っている。
エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)によると、2024年時点でレアアースの国別の埋蔵量は中国が48%、ブラジルが23%、インドが8%、オーストラリアが6%。鉱石から取り出す「精錬」の量になると、中国のシェアは91%と圧倒的で、続くマレーシアの5%、米国の1%を大きく引き離す。レアアース輸出国として中国の存在は大きく、日本は輸入量の72%を中国に頼っている。
―レアアースの「レア」は「まれ」という意味ですが、希少な物質なのですか。
「そうではありません。一般には資源が足りないと思われがちですが、陸上だけでもきちんと調査すれば、今の需要の千年分を超える埋蔵量があると思います。レアアースが濃縮している場所や、地表近くで採掘がしやすい場所はあります」
―では、生産国になるかどうかは何が決め手になるのでしょうか。
「採掘や精錬にかかるコストが最も重要です。結局は一番安く、経済合理性が高いところで掘って精錬することになります。レアアースを含めてレアメタルの必要量自体は意外と少なく、上位のたった3カ国の生産量だけで世界の需要がまかなえてしまいます」
―中国は、なぜ圧倒的な存在になったのですか。
「中国は、過去に鉱物資源の重要性を認識し、長年の政策として採掘できる場所を積極的に探し、関連産業を育成しました。優良な鉱山があり、なおかつ精錬にかかるコストが極端に低い点が非常に重要です」
―精錬は、どんな作業なのですか。
「掘り出した鉱石を酸で溶かし、有機溶媒などを使って鉱石の中に含まれる混ざり物の中からレアアースを分離する作業です。精錬後には有害な重金属を含んだ廃液や放射性物質を含む廃棄物が残るので、これを処分する必要があります。 中国は環境規制が緩く、ほとんどゼロコストで廃棄物が処分できます。以前に現地を視察した時は、精錬所近くに処分場があり、大きな池に廃棄物をどんどん捨てているのを目にしました。日本やアメリカは環境対策のコストが高いため太刀打ちできません」
中国江西省のレアアース精錬場=2013年(東京大の岡部徹教授提供)
―米国やベトナム、オーストラリアなどにも鉱山はありますね。対抗はできるのでしょうか。
「コストを下げるには廃棄物を処分するため、環境規制を緩めた特区のような場所を設ける必要があるのではないでしょうか。レアアースに限らず、非鉄金属の生産では、とにかく有害物質が出ます。それをどうやって安価に始末するかが勝負になります」
中国は鉱山の発見から採掘、精錬の技術開発までレアアースを生産する一連のプロセスを整備。さらに安い労働力と低い環境対策コストで米国など他国を圧倒し、優位性を確立した。
▽南鳥島沖のレアアース投資に得はないのではないか
内閣府によると、南沖鳥島沖の深海底には「産業的な開発が可能な規模」のレアアースがあるという。早稲田大や東京大は2018年、この海域に1600万トン以上が眠っているとの試算を発表した。
内閣府は「戦略的イノベーション創造プログラム」の一環で、2018年度から深海底からの採掘に向けた調査や技術開発に着手した。今回、採掘装置が問題なく稼働したことを受け、2027年2月からは1日当たり約350トンの泥を引き揚げる本格的な採掘試験を実施する予定だ。2028年3月までに、コストや産業化の可能性を評価する計画もある。
静岡市の清水港を出港した海洋研究開発機構の探査船「ちきゅう」=1月
―南鳥島沖のレアアース泥の採掘をどう評価していますか。
「基礎研究としては重要だと考えています。技術的に極めてチャレンジングな研究であるのは間違いありません。本格的に採掘する試験を行って、一連の工程の経済性を評価するのも良いと思います。 ただ、レアアースの生産コストが中国の100倍とか1000倍になっても驚きません。日本の資源セキュリティーやサプライチェーン(供給網)の観点から見て、多額の投資をしても得はないと思います。多額の国家予算を使うなら、安価に手に入るタイミングで中国から買って備蓄する方がはるかに国のためです」
―南鳥島沖のレアアース泥には、陸上の鉱石と違って放射性物質や有害な金属がほとんど含まれていないそうです。遠隔地の深海底を開発するコストはかかっても、廃棄物処理のコストは減らせるのではないですか。
「中国では、陸上の地表近くに濃縮した鉱石を採掘して、廃棄物をほぼゼロコストで処理しています。勝負にならないと思います」
小野田紀美科学技術担当相は2月3日の記者会見で「(経済性評価の)結果を踏まえて実用化の可能性についても検討したい」と述べているが、翌4日には高市首相が街頭演説で「日本はこれから今の世代も次の世代もレアアースには困らない」と喧伝した。
街頭演説する高市首相=2月4日、岡山県倉敷市
―首相の発言をどう受け止めましたか。
「いいかげんにしろと思います。コストや実用化の可能性をこれから検証する段階なのに『海底から掘れば資源セキュリティー上、大丈夫だ』というような話を首相がするのは確実におかしい。海外、特に中国から「日本の資源政策はとんちんかんだ」と思われてしまいます。 太平洋戦争中、政府は『わが国は不沈艦・戦艦大和があるから、アメリカの艦隊には絶対負けない』と国民の期待をあおった。当時はもう航空機が主流だったのにもかかわらずです。それと似て、政府が誤解を招く情報を出すと、間違って安心してしまう人が出てくるでしょう」
▽備蓄を進め、多様な供給元の確保を
高市首相は2025年11月、台湾有事は存立危機事態になり得ると国会で答弁し、中国政府が強く反発、日本向けレアアースの輸出を停滞させる懸念が出ている。
高市首相は今年2月25日の参院本会議で「特定国に依存しない強靱なサプライチェーンの実現に向け、供給源の多角化を進める」と述べた。南鳥島沖のレアアース泥開発ではアメリカとの協力も模索している。
―レアアースの安定確保に向けて、日本はどんな戦略をとるべきでしょうか。
「中国との関係をできるだけ安定させ、安くて良質なレアアースが大量に入ってくる状況を維持するのが第一です。国家戦略として安価な時にレアアースをたくさん仕入れ、10年分の備蓄をすべきです。安いときに買って備蓄する戦略をとらずに、供給障害が起きて価格が何倍にも跳ね上がってから買い付けに動くのはおかしい。そんな愚かな失敗を日本政府は繰り返しています」
北京市内の博物館で展示されているレアアース(希土類)が含まれた鉱物(共同)
―中国以外から調達する道はあるでしょうか。
「JOGMECはオーストラリアの企業に出資し、オーストラリアの鉱石に含まれる有害物質をマレーシアで処理した上で日本に運んでいます。価格は中国に比べれば高くなりますが。 他にも、信越化学工業がベトナムでレアアースの分離や精錬に取り組んでいます。こうした取り組みを増やし、政府が支援して供給元を多角化するべきです。中国以外からレアアースを調達して備蓄する手段になるでしょう」
―工業製品からのリサイクルや、レアアースの使用量を減らした磁石の開発は有効ですか。
「両方進めるべきではありますが、それだけで今、問題が解決するわけではありません。レアアースを使った製品の市場は拡大しているので、15年前に作った製品のスクラップから取り出しても、現在の需要は満たせません。リサイクルには、天然資源からレアアースを生産する場合に比べて有害物質が出ないという利点はあります。しかし、現在の技術レベルでは結局は鉱物から取り出すほうが圧倒的に安いので、実効性はあまりないかもしれません。 レアアースの使用量が少ない、小型で強力な超電導モーターの開発は日本のお家芸です。しかし技術的にはまだまだ途上です」
―戦略的な備蓄を進めながら、使用量を減らす技術にも投資していくということですね。
「それはレアアースに限らず、全ての鉱物資源に当てはまることです。仮に深海底からレアアースをそれなりに低コストで採掘できる技術を開発し得たとしても、それで解決するのはレアアースの問題だけです。日本が自給できるのはヨウ素と石灰石。そこにレアアースが加わったとしても、それだけで工業製品は作れません。そんな単純な話ではありません」
× ×
おかべ・とおる 1965年京都市生まれ。レアメタル製錬に関する研究で1993年に京都大博士(工学)。2009年から東京大生産技術研究所教授。2024年副学長。

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