<最凶ヒグマOSO18遂に>駆除したのは役場職員の鹿撃ち「怪我で弱ってたんじゃないか」「オソに手傷を負わせる強いクマがまだいる」お手柄にもかかわらず、役場も本人も諸手を挙げて喜べない理由

2019年7月ごろから、北海道の標茶町や厚岸町で牛66頭を集中的に襲い、北海道庁が特別対策班を設置するほど世間を騒がせた最凶ヒグマ「OSO18」。最後に見かけられた標茶町から40㎞以上離れた釧路町の牧草地で発見され、駆除された。OSO18を追い続けた男たちの証言を聞いた。
駆除当初、「OSO18」だとは思わなかった
これまでに「OSO18」が目撃された地域は北海道東部の標茶町とその南東部に位置する厚岸町の2地域だった。「OSO18」とは最初に目撃された標茶町の町内「オソツベツ」という地名と、前足の幅が「18センチ」だったことから名づけられたコードネームだ。これまで雄ヒグマが滅多に狙わなかった乳牛を獲物にしていること、朝夕待ち伏せるハンターの目をかいくぐる用心深さから、脅威の存在とされていた。
標茶長役場で姿が確認された「OSO18」(提供:標茶町役場農林課林政係)
そんな「OSO18」を捕獲したのは猟友会のハンターではなく、釧路役場の有害鳥獣駆除対応を担当する部署に所属する40代の男性職員だった。役場に勤務しながら鉄砲撃ちとしての顔も持つ珍しい役人ハンターだが、釧路役場に取材の旨を伝えると「男性職員への直接取材は避けていただきたい」とのこと。それには深い理由があり後述するが、とりあえずは捕獲時の様子を釧路役場の農林水産課の林務係に話を聞いた。「捕獲された2日前の7月28日、釧路町に2軒ある酪農家のうちの1軒からクマの目撃情報がありました。私ら役人と酪農家は顔見知りなので、職員が『んなら、見とくわ~』という感じで29日と30日にパトロールすることとなり、30日の朝5時ごろ、釧路町仙鳳趾村オタクパウシの牧草地で横たわっているところを発見したようです。職員を見ても逃げなかったらしく、まず首に1発、近づくと動いたために頭部に2発撃つと、まもなく絶命しました」
絶命した「OSO18」(提供:北海道釧路総合振興局保健環境部環境生活)
捕獲当初、このクマが「OSO18」だとは思わなかったという。そのため、軽四駆のジムニーに積んだが、そのままの走行は無理と考え、処理業者が持つ荷台のある車両に積み替えて運び、解体したという。前出の釧路町役場の林務係担当者は言う。「体長は尻尾から頭まで2メートル10センチで、体重は330キロ、手の平は20センチとかなり大型でした。すでに解体済みで毛だけしか残っていませんでしたが、念のために鑑定することとなり、8月10日に道立総合研究機構に体毛のDNA鑑定を依頼しました。その結果が8月18日の遅い時間にメールで届いていたのですが、すでに職員は退勤。その日は金曜日だったので、週明け8月21日の朝に発覚 し、すぐに標茶町役場に連絡を入れました」
猟友会支部長は「ひと安心だけど、残念だった」
その連絡を受けた標茶町役場農林課林政係の係長は「驚いた」の一言だったという。「私どもは27名からの鳥獣被害対策実施隊を結成し、22名ものハンターがヒグマ対策にあたっていました。オソ(OSO)は6月25日に標茶町チャンベツの町有林に設置されたヘアトラップに写っていたのを最後に、行方はわかっていませんでした」まさに「寝耳に水だった」というのは猟友会標茶支部支部長の後藤勲さん(78歳)だった。「21日の朝に標茶町役場の農林課林政係の係長が『重大なニュースがある』と私に電話してきて、何事かと思って自宅で待ってたら、係長と副係長話が『オソが釧路町役場によって仕留められた』と。この4年間、朝も夜もなくいつ何時でもケータイを離さず、目撃情報を待ち警戒態勢にあったもんだから、ひと安心の気持ちももちろんあるけど、残念だった。標茶で獲りたかった、という思いはありますよ」
標茶長役場で姿が確認された「OSO18」(提供:標茶町役場農林課林政係)
後藤さんいわく、「OSO18」はわからないことが多すぎた、という。「クマは一晩中歩いて40キロも移動するのはよくあることだけど、縄張りの中に他の個体が侵入するのを嫌うから、行動圏は互いに遭遇しないという特徴があった。でもオソはその縄張り意識がなく、縦横無尽に徘徊していたうえに日中はまず姿を見せなかった。なるべく痕跡を残さないよう川の中を歩いたり、舗装道路に足跡をつけないように橋の下から迂回していたし、まるで我々ハンターの夜間の猟銃発砲が禁じられていることを知ってるかのように、カメラに映るのも22時から午前2時くらいまでの真夜中でしたから」その難敵を倒すことが使命だった後藤さん。悔しい気持ちはあるかと聞くと「悔しいなんて気持ちはないよ。実はオソを仕留めた釧路役場の職員は近所で幼少期から知ってる子。4、5年前から猟銃免許を取って鉄砲撃ちになってたのは知ってたし、エゾシカ駆除にもかなり貢献してた。ガタイはいいけど大人しくて口数も少ないタイプでね。酪農家にとって数千万円以上もの被害を出したクマを倒したヒーローにもかかわらず、役場も彼本人も『名前を伏せたい』『取材を控えたい』と言っている」
「OSO18」より強いヒグマがいる可能性
その理由は意外なところにあった。「抗議が個人に及んでしまうのを避けるためですよ。本州の一部の人たちが『かわいそう』『殺すな、動物虐待だ』と抗議してくる。国や道などの行政も、檻を設置してオソを護れと言い出す始末だ。これだけの被害があって全国的な騒ぎになって、何千万円もの損害を受けた酪農家が苦しんでるのに、このままクマの個体数を増やすようでは、じゃあ、抗議する人らはここに住んでみるかいと言いたくなりますよ。農家の被害を補償してくれるのかと」「OSO18」の駆除に成功したとはいえ、後藤さんいわく「こんなのは氷山の一角に過ぎない」という。「オソを倒したとき、その顔には2箇所の傷があったと聞いた。そこから菌が入ってなんらかの病気になり、弱ってたんじゃないか。でなければ朝5時に牧草地で横たわってるなんてことはない。おそらく繁殖期に別のクマと喧嘩してつけられた傷でしょう。ということは、オソに手傷を負わせるほどの強いクマが他にいるということ。まだまだ安心はできない」
標茶長役場で姿が確認された「OSO18」(提供:標茶町役場農林課林政係)
かつて「OSO18」に牛1頭を殺される被害に遭った厚岸町の牧場「おのでらふぁ~む」の小野寺竜之介さん(34歳)も、決して安堵しきってはいない。「殺された牛は子供を産んだばかりの雌牛で、『さあ、これからたくさんの乳を出してくれよ』という、大事な仕事のパートナーのような存在でした。うちの牧場は乳牛40頭とかなり小さい牧場です。そんな牧場にとってはたった1頭をなくすだけでも大損害ですし、気持ち的なショックも大きい。やはりヒグマの個体数を減らさなければ根本的な解決にならない」最後に後藤さんは言う。「ヒグマとの共存は無理。しかし、我々ハンターだってクマを見つけたら即殺せとも思ってない。人命や農家の損害に関わることなので、しっかり頭数を管理しないといけない。野放しのクマは必要なくて、クマ牧場などで保護するのでいいのではないかと思っています。人間が檻の中で暮らすわけにいかないですから」OSO18よりも強いクマの出現に人間が脅かされるより前に、手を打たなければいけない。取材・文/河合桃子集英社オンライン編集部ニュース班

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