――「台湾有事」が起きればどうなるか
元陸上自衛隊「特殊作戦群」初代群長、荒谷卓氏「中国の台湾侵攻は、まずあり得ません。グローバル経済システムの恩恵で経済大国となった中国にとって、軍事的手段を取る必要はない。むしろデメリットの方が大きい。軍事的にも、台湾を占領するとなれば、相応の戦力を海と空経由で台湾に展開する必要がある。だが、現在の中国が陸上戦力を運べる能力は、どんなに試算しても同時数個大隊がやっとです。そんな貧弱な地上兵力では、やられに行くようなもので考えにくい」
元海上自衛隊「特別警備隊」初代先任小隊長、伊藤祐靖氏「敵前上陸は難しいんですよ。先の大戦の硫黄島でも、米軍は猛烈な空爆と艦砲射撃で上陸作戦に備えたが、最初に上陸した約9000人の米海兵隊は日本軍の一斉射撃で膨大な死傷者を出した。それほど損耗するということです。それだけのメリットが台湾にありますかね…」
荒谷氏「台湾も中国と戦争などしませんよ。事実、台湾では人々の話題にもなっていない。ロシアへの国際批判を見れば、欧州各国との貿易も好調な中国が戦争に踏み切ることも考えられない。『台湾有事』は日本だけで盛り上がっているのです」
――伊藤氏は2012年、沖縄県・尖閣諸島の魚釣島に上陸している。「尖閣有事」の可能性は
伊藤氏「私が上陸した時点では、中国に本気で火花を散らす気がないことは感じました。中国海警局の船と海上保安庁の巡視船の間に、私の乗っていた船が挟まれました。相手の細かい操艦を見れば彼らが、『面倒を起こすな』と言われていることがにじみ出ていた。中国が公船を出す目的は、国内向けの示威行動ではないか」
――米国は「台湾有事」へ積極的に動いているが
荒谷氏「近年のデフォルト騒動で明らかなように米国の財政は破綻に直面し、ドル覇権の生命線だった、原油取引をドル建てで行わせる『ペトロダラー』体制も崩壊しつつあります。ドル離れが加速し、米国の延命策は安全保障の危機をあおって軍事力を売るしかない。存在しないリスクをあおるショック・ドクトリンに乗りそうな国は、ウクライナ以外では現在の日本ぐらいです」
――覇権的な行動をとる中国は脅威では
荒谷氏「中国は、米英のグローバリストの投資によって育てられ、大国としての持続性はないと見ている。ウクライナ紛争では米国もロシアも欧州も疲弊し、傍観していた中国が唯一の大国になる可能性はある。だからこそ日本は自立した国家として無傷で残らなければならない」