妻との離婚を装うため、勤務先の市役所で不正に戸籍謄本を偽造したなどとして有印公文書偽造・同行使罪に問われた元富山県射水市職員の男(39)の公判が、富山地裁高岡支部であった。軽い気持ちで犯罪に手を染めた男に足りなかったものは何か――。法廷から探った。(吉原裕之介)
「犯罪とは分かっていたが正直、当時の自分はここまで大きな事件になるとは思わなかった……」
同支部101号法廷で6日に行われた被告人質問。きれいに髪を切りそろえ、黒色のスーツ姿で証言台に立った男は起訴事実を認めた上で、検察官の質問にこう言葉を絞り出した。
結婚していながら、独身と偽って別の女性と交際していた男は昨年10月、市役所内に保管されている偽造防止用紙を不正に持ち出し、業務用パソコンで妻との離婚が成立したとする偽の戸籍謄本を作成。離婚を信じ込ませるため、交際女性にLINEで送信した。しかし、交際女性が市役所に問い合わせ、偽造の事実が発覚した。
男は動機について、「交際女性に『離婚したという事実を戸籍で確認させてほしい』と言われ、偽造してでも何とかその場を乗り切りたかった」と語った。
市財務管理部の主任だった男は事件発覚後の今年2月に懲戒免職処分を受け、妻と離婚。市からは厳罰を求める告発状が県警に提出され、6月に起訴された。現在は石川県の実家に戻り、コンビニ店でアルバイトを始めたという。
有印公文書偽造罪の法定刑は1年以上10年以下の懲役だ。被告人質問の終盤、検察官から「なぜここまで重い刑に問われるか分かっているか」と問い詰められた男は少し間を置き、「こういうことが日常的に行われれば公務員全体の信頼が失われてしまうからです」と力なく返答した。
検察側は「自己の立場を利用し、日本の戸籍制度の根幹を支える公文書を偽造した悪質な犯行」と懲役1年6月を求刑。弁護側は「免職処分や離婚など、十分な社会的制裁を受けている」として執行猶予付きの判決を求めた。うそにうそを積み重ねた果てに、守るべき職務の規範を超えた今回の事件。判決は10月25日午前10時半に言い渡される。