キタキツネ「天敵」は車、札幌で交通事故死293匹…エキノコックス症の感染へ警戒も

札幌市の市街地で、キタキツネの目撃が相次いでいる。市内には身を隠せる大規模公園が点在する上、野ネズミや生活ごみなど餌に困らない環境があるようだ。ただ、キツネはエキノコックス症を媒介する恐れがあり、共存のあり方が課題になっている。(林麟太郎)

住宅地に囲まれた札幌市清田区の平岡公園。管理事務所によると、6月頃は、巡回で週1、2回ほど姿を見かけたといい、夏場も公園近くの道路や園内で出没が確認されたという。
園内の遊具で子どもと遊んでいた同区の製造業男性(30)は、「夏場、住宅街をまるで野良猫のように歩いていた。子どもには近づかないように言っている」と話す。
キツネは本来、主に里山で生息する。一方、市内には自然豊かな公園など身を隠せる場所が多い上、園内には野ネズミや野鳥などがおり、園外には市民が出す生ごみがある。
里山のようにワシやフクロウなどの天敵に襲われるリスクも少なく、キツネにとって都市部は過ごしやすい場所ともいえる。唯一の天敵といえるのが車で、市によると、市内でのキツネの交通事故死(ロードキル)は、2005年度は31匹だったが、22年度は過去最多の293匹を記録した。

キツネの目撃例が相次ぐようになったのと同じく、市民らによる餌やりも後を絶たない。道内では年に20人ほどのエキノコックス症患者が報告されているが、キツネとの接触機会が増えれば感染のリスクは高まる。各地ではエキノコックスの駆虫薬を使った感染対策が取られている。
広大なキャンパスを持つ北海道大は、14年から駆虫薬入りの餌をまき、キャンパス内で見つかったキツネのフンにエキノコックスの卵があるかどうかを調べている。
散布直前は採取したフンの53・4%から卵が見つかっていたが、散布後の16年以降はほぼゼロに。同様の取り組みは中札内村やニセコ町でも、町村ぐるみで行われている。

一方、札幌市は「まずは市民に残飯の管理や手洗いの徹底をしてもらいたい」として駆虫薬対策には否定的だ。平岡公園や月寒公園など一部の公園では駆虫薬を導入しているが、いずれも指定管理者が実施し、行政として取り組んでいるわけではない。市によると、キツネは鳥獣保護法による保護対象動物のため、積極的に駆除することもないという。
キツネの生態に詳しい北大大学院教育推進機構の池田貴子講師は「市街地から追い出すことは現実的でなく、街にすむキツネをエキノコックス症に感染させないことが重要だ。各団体の管理方針に任せるだけではなく、行政が主体となって管理していく必要があるのではないか」と指摘する。
◆エキノコックス症=寄生虫のエキノコックスによる感染症で、キツネや犬のフンに含まれる卵を水や食べ物などを通じて摂取することで感染する。エキノコックスは主に肝臓や肺に寄生して肝障害などを引き起こし、患部を切除するしか根本的な治療法はない。感染対策には、外出後の手洗い、山菜や生水の加熱などが挙げられる。

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