原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定を巡り、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長が27日、第1段階の文献調査を受け入れないと表明した。記者会見での主なやりとりは次の通り。
――市民の合意形成が十分でないと判断している。
議会でも報告したとおり、最終処分場の文献調査を受け入れないとの判断に至った。理由として次の5点がある。
1点目が市民の合意形成が不十分であるということ。市民の分断が起こっているということは、市民の合意形成が十分でないというふうに判断している。
2点目は風評被害の懸念がある。先行自治体では発生していないということだが、関係者からの意見を勘案すると観光、水産業への風評被害が少なからず発生しうると考えられると判断した。
3点目。「文献調査だけ」という考えに至らなかった。調査結果によって適地と判断された場合、概要調査に移るが、自治体の長として文献調査を受け入れた以上、次の段階に進まないという考えには至らなかった。
4点目だが、市民に理解を求めるまでの計画、条件がそろっていなかった。長期的な事業ということで、国などの見解も理解できるが、安全性や事故が発生した時の対応や避難計画など、将来の対馬を案じている市民の不安を払拭(ふっしょく)できるまでの計画ではなかった。
最後に5点目。将来的な想定外の要因による安全性、危険性が排除できなかった。ガラス固体の「人工バリアー」と特徴がある地層の「天然バリアー」を組み合わせることで人体への影響を防止すると聞いているが、天然バリアーは地震などの想定外の要因による放射能流出の想定も排除できず、将来的に市民に影響、危険性がある最終処分施設の調査地として手を挙げる判断には至らなかった。
五つの要因から、最終処分場にかかる文献調査を受け入れないという判断に至った。市長としての見解、判断については、市民の合意形成、市民、そして対馬市の将来に向けた安心・安全な事業であるかを重点的に熟慮した結果であり、市民、関係者の皆さまにはご理解を願う。
市長選の出馬についてだが、2期7年6カ月、市長として対馬市のかじ取りを担ってきた。全国の自治体の共通課題でもある人口減少など多くの課題が残されていることやこれまで実行してきた政策の実現など、いま一度対馬市の発展に尽力したいということで立候補することに至った。
◆いつごろ決断した?
――この会見でも申し上げたが、対馬市の将来を左右する本当に重要な案件と受け止める。私は前回の市長選で最終処分場は受け入れないと言っていたが、それだけでなく、市民の皆さまがどのように考えているのか、対馬市の市民のためにはどの方法が最適か熟慮を重ねた。この中で、いろんな方に相談をした。
◆議会軽視との意見もあるが
――私自身も議会の請願採択は重く受け止めた中での判断。これは私個人の問題ではなく、対馬市で生活する市民の方たち、そして、対馬にこれから育つ子供たちの将来を考えた。議会と反する結果ではあるが、今後議会には丁寧に説明をした中で理解を求めたい。
◆風評被害は起きると考えた理由は
――国から、防災計画や事故が発生した時の避難計画の措置は今後段階的に調査、プロセスを進める中で検討されるという回答があった。現段階では具体的な内容まで策定されていない。このことについては市民の関心度が非常に高い。何らかの対策を示してもらえれば市民の理解も深まったと考える。風評被害だが、福島の処理水の問題においては、生産物が中国で輸入禁止になって水産業者は打撃を受けている。対馬は、福島第1原発の事故で、韓国と取引していた水産物が取引禁止になったこともあった。韓国から大勢の観光客が対馬に来ていたが、事故の影響で、客が少なくなった。それも一つの風評被害。対馬は水産物については、統計上で2022年で168億円という水揚げだが、うち10%でも被害が出れば、16億円くらいの被害が出る。観光産業は189億円を超えていた時期もあった。客が激減すれば大きな被害が出る恐れがある。
◆どのように対馬を振興させるか
――難しい問題と正直に思っている。(文献調査を受け入れれば)20億円が交付されるが、風評被害が起きれば水産関係では1割であっても16億円、観光産業でも18億円の被害がでる。20億円の交付金には代えられない。今後の経済対策だが、対馬には年間3万から4万立方メートルが漂着する海ごみを題材にした活性化策を民間企業と取り組んでいる。2025大阪・関西万博で対馬モデルを発表したい。2点目は、これまで対馬市は独自に構築したインターネットの高速通信を実施してきた。午後6~10時になると通信速度が極端に落ちる。いろんな苦情も出ている。NTTと協議した中で、今年度から高速網を譲渡する計画を立てて、NTTも今年度から光網の構築に取りかかっている。今まで、企業誘致をしてきたが、対馬市の通信環境は脆弱(ぜいじゃく)という話もあったので、改善されることになる。
◆市民の合意形成については
――文献調査に着手することイコール最終処分場の建設という間違った考え方をしている人もいる。文献調査に着手してその中で原子力発電環境整備機構(NUMO)は市内に入って周知・説明をすることだったが、2年間の文献調査で対馬が適地と判断した場合は対馬市は「これ以上は受けられない」と判断できない。文献調査に入れば20億円の交付金が得られるということだが、私の元にも20億円の交付金をもらうために文献調査をするのかという話もあった。いったん、文献調査に入ったらなかなか断ることが難しいと判断した。そういう中で、文献調査の段階から受け入れをしないという判断に至った。
◆最終処分場の反対を掲げて選挙に臨む?
――本日正式に市長選への出馬表明をしたが、私としては議会の中でも申し上げたが受け入れないという表明をもってこのことに終止符を打ちたいと思う。次の市長選は私個人としてはあまり争点にしたくないと思っている。
◆なかなか終止符は打てないのではないか
――私の希望的なことかもしれないが、私としてはこれ以上市民の分断を深めたくない。住民投票の話が出たが、私自身は住民投票の実施は考えていないが、正式な手続きで住民投票が実施されるようになれば、議会にかけて条例を出して住民投票の実施になるのではないか。
◆議会で採択されたが賛成10人反対8人と拮抗(きっこう)していた。この数字は市長の判断に影響を与えた?
――10対8という僅差になったが、当初は反対派が少なかったと聞いている。それが10対8になったということは推進派にいた議員も本当に市民の切なる声を聞いた上でそのように変わったと思う。私が判断する上で貴重な参考とさせていただいた。
◆住民投票が仮に行われた場合、賛成が多数になった場合はどうするか
――現時点でどうなるか分からないが、私と反対の立場、推進派が多いのであればそれは市民の合意がそちらに近いということなので、そのことは再度考慮しなくてはならない可能性もある。