2025年大阪・関西万博に合わせ、大阪市は25年1月に市内全域で路上喫煙を禁止する方針だ。これに伴い、市は120カ所の喫煙所を新設する計画を立てている。しかし商店会などは「全く足りない」として、その3倍の喫煙所を整備するよう求める。大都市の全面的な路上禁煙は世界的に先行事例がないとみられるだけに、たばこを吸う人と吸わない人が快適に過ごせるまちづくりができるか、注モクだ。
10月下旬の平日の午後0時半。北区の堂島(どうじま)公園喫煙所には順番待ちの行列ができていた。コンテナタイプで定員11人。代わる代わる中で一服しては職場に戻っていく。梅田から15分近く歩いて来たという50代の会社員男性は「昼はやはり混みますね。もう少し近くにあるとありがたいんですが」と話した。
大阪市は条例を制定して07年から屋外での喫煙の規制を始め、まず梅田から難波までの御堂筋や市役所、中央公会堂の周辺を路上喫煙禁止に。15年にJR京橋駅周辺、19年に戎橋筋と心斎橋筋、20年にJR大阪駅周辺とJR天王寺駅周辺に拡大した。堂島公園周辺は22年9月から加わった。違反者は1000円の過料が科される。
現時点で市が管理する喫煙所は、高速道の高架下(阿倍野区)や駅前ロータリーの一角(天王寺区)など6カ所だ。路上禁煙が市全域に広がって喫煙所が足りなくなれば「喫煙難民」があふれることが懸念される。実際、10年に路上全面禁煙を実施した東京都千代田区では違反者に2000円の過料を科すことにしたところ、コインパーキングなど規制対象外の私有地に喫煙者が押し寄せる問題が生じている。
そこで大阪市は昨年、公設の80カ所と、民間に協力を募るタイプ40カ所で計120カ所の喫煙所を新設する計画を打ち出した。ショッピングモール内のほか商店街の空き店舗などに民間が設置する場合、地下なら2000万円、地上なら1000万円を上限に補助金を交付する。
120カ所の根拠は、昨年8月に実施したインターネット調査にある。対象とした喫煙者500人のうち屋外の路上や公共スペースで喫煙する人の割合は約21%。これまでの健康調査などから25年の市内の喫煙者は住民と通勤者を合わせて63万人と推計され、その21%の13万5000人が路上や公園などで喫煙すると仮定した。堂島タイプの喫煙所なら1日2310人が利用できることなどから十分な数と判断したという。
一方で、受動喫煙の防止を目的とした20年4月の改正健康増進法で100平方メートルを超える店舗は原則禁煙となり、常連客離れに悩んでいる飲食店主らは多い。そこで市内の商店街組織でつくる市商店会総連盟も、民間調査会社に委託して「適正」な箇所数を試算してもらった。
モデルは喫煙対策が効果を上げているとされるJR京都駅周辺。近鉄や京都市営地下鉄を含めたターミナルの1日乗降客数と喫煙所の数を参考にすると、大阪市内の駅周辺では267カ所が適正と出た。それにオフィス街や飲食店密集地域など駅周辺以外の必要数を人口動態ビッグデータの分析から計算し、合わせて必要数は367カ所と導き出された。
今年2月に喫煙所を早急に増やすよう求める陳情書を市議会に提出した天王寺区商店会連盟の佐野嘉昭副会長は「たばこを吸う常連客が(喫煙所を備える)大型商業施設に流れてしまえば死活問題だ」として増設を訴えている。
商店会総連盟の意見と3倍近い開きがあることについて市環境局は「京都駅周辺の設置状況を大阪市全域に当てはめて必要数を算出するのは実態にそぐわない」としており、あくまで120カ所が妥当との見解だ。
ちなみに堂島公園のようなコンテナ型の喫煙所の設置費用は空気清浄機やエアコン完備で1カ所約1400万円。公設80カ所で計約12億円を見込む。これに民間事業者への交付金を合わせ、23年度と24年度の2年間で総事業費は17億6000万円となる。また、現在は13人ほどいる指導員の人件費は年間5500万円。市全域で路上喫煙を取り締まるとなると、指導員と人件費はこの5倍は必要になるという。
海外の喫煙規制を調べているJTによると、ニューヨークの公園やソウル市街地などで混雑するエリアを禁煙とする例があるが、大都市の路上を全面的に禁煙にするのはほとんど例がないという。
市環境局のまち美化担当課は「市内全域で規制が始まれば喫煙所の利用実態を毎年点検し、必要に応じて柔軟に対応したい」としている。同志社大政策学部の小谷真理准教授(環境法)は「未知への挑戦で課題は多いが、市民の協力を得て最適解を見つけていく過程は分煙社会の構造を作る試金石になるのではないか」と話す。【安部拓輝】