岩田温「日本の選択」 芥川賞作家も警鐘「性自認主義」の恐怖 「男が人権と称し女を名乗るな」常識的見解がヘイトスピーチとも

日本においても「ターフ(TERF=トランス排除的急進的フェミニスト)」批判は始まっている。そう告白するのが作家の笙野頼子(しょうの・よりこ)氏だ。芥川龍之介賞や三島由紀夫賞、野間文芸賞など数多くの受賞歴を誇る著名作家である。
彼女は保守的な思想の持ち主であったわけではない。むしろ、政治的な立ち位置は左派に属していた。日本共産党の機関紙「赤旗」で選挙の総括を執筆したり、連載対談までしていた。だが、彼女は今や「極右の回し者」とされている。
自他ともに左派として認識されていた彼女が「極右の回し者」とされたのは何故なのか。それは彼女が性自認主義に反対の立場を明らかにしているからだ。彼女の反ジェンダーの立場を明確にした著作『女肉男食 ジェンダーの怖い話』(鳥影社)は、性自認主義の危険性を訴える女性からの切実なメッセージである。
彼女は訴える。
「男が自分の主観を現実、人権と称し、弱い立場の者(=大半は女性)に押しつけるな、男なのに女を名乗るな、医学、科学を捨てるな」
こうした発言が「ヘイトスピーチ」とされてしまう。多くの人々が抱いている常識的な見解を表明しただけで「極右」呼ばわりされる。
性自認主義の横溢(おういつ=あふれるほど盛んなこと)によって「常識」が破壊された米国の事例も深刻だ。カリフォルニア州の女子刑務所ではコンドームを配布しているという。陰茎つき女性と称する生物学的男性が「女性」と称し、ときに強姦をしでかすからだ。こうした自称女性を追い出せばよいと考えるのが「常識」だろう。
しかし、性自認主義が前提とされた社会では、こうした主張が「人権蹂躙(じゅうりん)」とされる。なぜなら、性は自身の意志によって自由に選択できるのが人権であり、そうした個人の意志を生物学的根拠に基づいて否定することは人権を侵害する主張とされるからだ。
笙野氏は、性自認主義が新しい常識とされる現象を「女消(めけし)」と名付けている。すなわち、女の存在を消してしまう運動だというのだ。
かつての左翼だった彼女が現在、推しているのが自民党参院議員の山谷えりこ氏だ。彼女は「LGBT理解増進法の中に性自認=ジェンダーアイデンティティーの新訳が入ってしまうと、女子スポーツに男子が参入してメダルを取ったり、女子トイレに男子が入ってくるような不条理なことが起こる(要約)」と主張した。笙野氏は「彼女だけが本当のことをいっている」と思ったのだ。
私は、笙野氏とは政治的見解が大いに異なる。だが、性自認主義の恐怖を訴える彼女の主張は傾聴に値する。保守政党を自認しながら性自認主義への道をひらいた自民党、女性の権利擁護を踏みにじった「リベラル」政党。いずれにせよ性自認主義についての認識が甘すぎる。
(政治学者)
=おわり

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