ニュース裏表 田中秀臣 経団連・十倉会長の「岸田政権の支持率上がらないのが不思議」発言 庶民生活の苦労分からないなら「上級国民」批判は当然

経団連の十倉雅和会長が11月20日の会見で、「なぜ岸田文雄政権の支持率が低迷するのか」という質問に対して、「防衛、外交、デフレ完全脱却など一つ一つの政策はいいことをやっている。なぜ支持率が上がらないのか不思議だ」とする趣旨の発言をした。この発言はネットを中心に注目を集め、批判を浴びた。岸田政権への不人気の根底にある、庶民生活の苦労を想像できていないからだ。
十倉会長の発言は、フランス革命直前に「パンがなければ、お菓子を食べればいい」と言ったとされるマリー・アントワネットを思い起こさせる。マリー・アントワネットは、史実ではこの発言をしていないというが、岸田首相や十倉会長は、庶民生活の重要な側面を見落としているという点で、言われなき批判ではないといえる。
問題の核心の一つは、消費税にある。現在の10%の税率もそうだが、インボイス(適格請求書)制度での負担、さらには将来の消費税増税の可能性が問題だ。ガソリンのいわゆる「二重課税」にも消費税が関わっている。
現在の消費税の負担によって、低所得層の経済苦はかなりのものだ。低所得層ほど消費が不振である。それも前回の消費税増税以降、一貫して低迷が続いている。岸田政権は低所得層には給付金を支給するとしているが、たった1回かぎりで改善するわけもない。
インボイス制度は、財務省にとっては年間約2480億円の税収増になる。つまり景気が悪いなかでの実質増税である。しかも、インボイス制度によって民間企業が行う請求書や経費の処理作業にかかるコストが莫大(ばくだい)となる。試算によれば最大で4兆円、作業効率を上げても4000億円も年間に負担が増える。これは〝消費税の見えない負担増〟だ。中小企業の多くは、インボイス制度での作業コストの負担に苦しむだろう。景気が改善しないなかでの典型的な緊縮政策だ。
ガソリン価格が高い原因の一つといえる「二重課税」問題もある。ガソリンには元々ガソリン税などがかかり、さらに購入時点で消費税がかかる。岸田政権は石油元売り各社に補助金を与えて、ガソリンの価格低下を実施している。だが、消費税を直接引き下げた方が、消費者にとって利益があるのは明白だ。
将来の消費増税については、十倉会長は「消費税増税から逃げてはいけない」と発言して物議を醸した。国民の豊かさを増税で押し殺して、ビジネスが成立すると考える財界トップの発想は実に貧しい。岸田首相は消費税減税もしないが、増税もしないという。財界が本当に国民のことを考えるならば、むしろ岸田政権に消費減税を迫るべきだ。それができないのならば、「上級国民」といった批判を受けるのは当然である。 (上武大学教授)

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