[検証・万博の現在地 開幕まで500日]<5>
大阪メトロ御堂筋線なんば駅に23日、顔認証で運賃を決済し、手ぶらで通過できるウォークスルー型の改札機が登場した。2025年大阪・関西万博の開幕時、会場の最寄りの新駅・ 夢洲 と大阪市中心部を結ぶ中央線など全駅で利用できる。今後、スマートフォンのアプリなどで顔を登録する想定だ。
大阪メトロの担当者は「会場に向かう人が乗車券を出す手間が省け、時間短縮につながる」と請け合う。
1日最大22万7000人が訪れるとされる会場への公共交通機関でのアクセスは2ルートに限られる。うち55%の12万4000人が利用する中央線は、夢洲につながる唯一の鉄道路線だ。
大阪メトロは、全駅に可動式ホーム柵の設置を進め、ホームとの段差の少ない新型車両を導入するなど運行トラブル防止に腐心する。
沿線に官公庁や大手企業が多い中央線は、通勤利用が多く、1日あたりの平均輸送人数は約29万人(2022年度)にのぼる。
大阪メトロは、1時間の最大運行本数を16本から24本に増やすものの、ピーク時の混雑率は140%程度と予測される。日本国際博覧会協会(万博協会)は、平均混雑率を120%程度に緩和するため、沿線の企業や住民に時差出勤や在宅勤務を呼びかける方針だ。
中央線本町駅近くの会社で働く男性(54)は「長期間、在宅勤務するわけにはいかず、メリハリをつけてほしい」と話す。
地下鉄以外の主要ルートが、JR線で最寄りの桜島駅と会場を結ぶシャトルバス。運転手が100人以上足りず、全国のバス会社から募る事態となっている。主要10駅や空港と会場を結ぶ路線で1日最大3万5000人(全体の15%)を運び、うち45%を桜島駅の路線で担う。
「バス業界の事業環境がここまで急激に悪化することは想像していなかった」。万博協会交通部長の淡中泰雄(52)は打ち明ける。
バス会社は、コロナ禍での利用者減や原油高で業績が悪化。人材確保のための賃上げなどに対応する余裕がない上、労働時間の上限規制が強化される「2024年問題」も重なり、運転手不足が加速している。
桜島駅には70台のバスを用意し、1日1万6000人を会場に運ぶ予定だが、運転手を確保できないと大幅な減便を強いられる。
淡中が強く懸念するのが、バスのピストン輸送が機能せず、大阪駅方面などから桜島駅に到着した人が滞留する事態だ。JR桜島線の電車(8両)は定員約1200人。バスの定員は1台約60人と想定され、一定数がスムーズに電車からバスへ乗り継げない事態が考えられる。
桜島駅は、乗り降りする人が同じホームを使う構造で、出口が1か所しかない。JR西日本は期間中、混雑回避のため、改札機を増設して安全性を高める方針だ。
2005年の愛知万博では、1時間あたりの乗車人員に3・6倍の差があった地下鉄(6両)とリニアモーターカー(3両)の乗換駅で1日最大6000人以上が滞留し、2時間待ちの大混雑となったという。
鉄道関係者からは、事態が悪化すると、桜島駅で人を降ろせなくなり、桜島線と接続する大阪環状線のダイヤが乱れると危惧する声が出ている。
淡中は「バスの運転手を確保し、不測の事態を招かないように綿密な輸送計画を練り上げたい」と語る。
万博協会は、交通アクセスの 脆弱 性を補うため、新大阪駅など主要駅から、どのルートを選んでも運賃が同水準になるように調整している。安いルートに来場客が偏るのを防ぐためだ。
JR桜島線の夢洲への延伸も検討されているが、JR西は、概算で約1700億円の事業費を自社だけでは賄えないとして慎重な姿勢を崩していない。
万博来場者輸送対策協議会の議長を務める大阪公立大教授の内田敬(交通計画)は「今の社会情勢を踏まえれば、大規模な開発で無理に公的資金を投入しても将来に負担を残すことになりかねない。ハードの限界をアイデアと工夫で乗り越える」としている。(敬称略、おわり)
(この連載は、万博取材班が担当しました)