神戸市灘区の阪急神戸線「篠原第二踏切」で10月、手押し車を利用していた女性(94)が電車にはねられ死亡した。「元気で優しい人だった」「明るく笑顔がすてきだった」。近所の住人らはショックを隠しきれない様子をみせ、女性をしのぶ。事故の背景として浮上したのは、線路に対し道路が斜めに交差するなどの現場の構造。なぜ、女性は亡くなったのか。現場を歩き、探った。
事故が起きたのは10月24日午前7時15分ごろ。それから1カ月あまりが経過した先月下旬、女性と同じように南西側から踏切に入った。道路は進行方向右斜めに線路と交差しているが、軌道との境界に沿って黄色のラインが引かれている。「これなら道路から外れることはないのではないか」。そんな印象を抱いた。
ところが、腰を曲げて前かがみになってみると、考えは一変した。踏切内には線路に対し直角に、舗装のつなぎ目のような線がある。視野が極端に狭く、踏切全体の構造を把握できない中、こうした線や「線路に対して直進」という感覚に頼って歩くと、徐々に道路から外れていく。
女性は当時、右手で小型の手押し車を押し、左手に荷物を持っていた。周辺の防犯カメラの映像などによると、進路が道路から外れ、軌道との境付近でレールに手押し車のタイヤが挟まって転倒した。年齢などを合わせて考えると、こうなってしまうことは十分あり得ると感じた。
女性がどこに向かおうとしていたのかは、よく分かっていない。自宅は現場の南約300メートル。近所の住人らによると、夫に先立たれるなどして「10年以上前から一人暮らしだと思う」。
50代の主婦は「すごく明るく、はきはき話す元気な方だった」と振り返る。地域のことを教えてくれ、ごみ置き場がカラスに荒らされたときには片付けを手伝って「『大変だよね、いつでも困ったら言ってね』と優しく声をかけてくれた。すごく寂しい」。60代の主婦は「ここまで長生きして最後がこういう形というのは…。何とか助けることができなかったのか」と肩を落とした。
この踏切のように、線路と道路が斜めに交差する構造は珍しくなく、より急角度で交差する踏切も多い。それでも現場ではこれまで、ベビーカーのタイヤが挟まるなどのトラブルも起きていたという。
現場では速度を上げて横断する車を警戒し、道路の端を歩く人も多かった。しかし、軌道との境に引かれた黄色のラインを越えると、すぐに段差になっていたり、道路の端がくぼみのようになっていたりもする。こうした点にも危険を感じた。
道路を拡幅する、分かりやすいよう色分けする-。電車に関する事故には駅ホームの転落防止など取り組むべき課題が多いのは理解するが、今回の現場でもできる対策はいろいろとあるのではないか。同じような悲劇が起きてほしくないと切に願う。(安田麻姫)