原告「警察や検察はなぜこんなことを」、識者「捜査機関として失格」…国賠訴訟で捜査の違法性認定

精密機械製造会社「大川原化工機」の社長らが国家賠償を求めた訴訟は、東京地裁が27日、一連の捜査の違法性を認め、国と東京都の双方に慰謝料などの支払いを命じる判決を言い渡した。「警察や検察はなぜこんなことをしたのか」。原告らは、捜査機関側に徹底した検証を求めた。(糸魚川千尋)
27日午後2時半、東京・霞が関の同地裁正門前。判決言い渡し後、大勢の報道陣の前に笑顔で姿を現した大川原正明社長(74)は、「勝訴」と書かれた紙を持ち、「警視庁と検察庁には検証と、できることならば謝罪を求めたい」とはっきりとした口調で語った。
約1時間後に行われた記者会見でも「裁判所には適切な判断をしていただけた」と述べた大川原社長。近くには、2021年2月に72歳で亡くなった同社の元顧問・相嶋静夫さんの写真が置かれていた。
相嶋さんは大川原社長、元取締役・島田順司さん(70)とともに逮捕・勾留されたが、後に胃がんが判明した。治療を理由に保釈請求したが、検察側は「証拠隠滅の恐れがある」と反対し、裁判所も認めなかった。その後、勾留が停止されたものの、起訴が取り消される前に、「被告」の立場のまま息を引き取った。
判決は、体調が悪化した相嶋さんが直ちに医療機関を受診できず、勾留執行停止という不安定な立場の中で治療を余儀なくされたと指摘。相嶋さんの妻や息子についても「夫であり父である相嶋さんとの最期を平穏に過ごす機会を、捜査機関側の違法行為で奪われた」とも言及した。
会見には、訴訟の原告でもある相嶋さんの長男(50)も同席し、「父は尊厳を踏みにじられ、最悪な形で最期を迎えてしまった」と語気を強め、「判決を踏まえて、司法関係者には改善策を真剣に考えてほしい」と訴えた。
また、島田さんも会見で「判決で事実が解明され、我々の正義や名誉はある程度回復できたと思う」と話し、「都や国で再発を防止するための検証をしてもらい、二度とこういうことのないようにしてほしい」と語った。
検察幹部「厳しい判決」

判決は、警視庁公安部が合理的な根拠が欠けたまま逮捕に踏み切り、東京地検の検事も必要な捜査を尽くさないまま起訴したとして、一連の捜査を「違法」と結論付けた。
判決を受け、警視庁幹部は「捜査段階で疑念が生じていたのに、消極派の意見を十分に評価しないまま、捜査が進んでしまったのだろう。消極派が声を上げにくい雰囲気があったとすれば、組織として問題だ」と指摘。公安部の関係者は「判決の結果を真摯に受け止め、信頼回復のために自分たちの使命を着実に果たしていきたい」と話した。
検察幹部の一人は「検察は基本的に警察官の捜査結果を信用し、起訴の判断をする。起訴段階で『無罪かもしれない』と考えて起訴する検事はおらず、厳しい判決だ」と述べた。
その上で「被告が亡くなった結果は重い」とし、「判決の指摘で改善できる点があるのか、よく検討したい」と話した。
別の幹部は、「検事が慎重を期して、判決が指摘するような再度の温度測定を行う判断はあり得た」と指摘した一方、「起訴するかどうかの裁量は検事に委ねられているが、判決は、起訴に必要なハードルを高く設定しているようにもみえる」と語った。
元警察大学校長の京都産業大学・田村正博教授(警察行政法)の話「事件を巡り、捜査機関として失格と指摘された重い判決だ。今回の捜査は国民の信頼を大きく損ねたといえる。警視庁トップの責任で、市民を代表する公安委員会の指導を受けつつ、信頼回復に取り組まなければならない。法廷で『 捏造 』証言が出たのは、捜査幹部の方針に対して現場の捜査員が不信を抱えていたことの表れだ。捜査員との信頼関係を取り戻す意味でも、事実と証拠に基づいて、捜査指揮を行うことを徹底する必要がある」

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