自民党は来年1月から、安倍派などの政治資金規正法違反事件を契機に、派閥見直しや政治資金規正法の改正を巡る議論を本格化させる見通しだ。政治改革の経験豊かな渡海紀三朗政調会長(75)の手腕に注目が集まっている。
「令和の時代に、政治改革大綱をみんなで作ってはどうか」
渡海氏は今月25日、党本部での会合で、岸田首相(党総裁)や茂木幹事長、麻生副総裁らを前に、こう提案した。
渡海氏が言及した政治改革大綱は、リクルート事件の反省を踏まえ、自民が1989年にまとめたものだ。閣僚・党三役の派閥離脱や政治資金の公開徹底などを掲げたが、形骸化が指摘されている。
渡海氏は22日の就任記者会見では「もう一度ちゃんと議論し、新たな大綱を作るのがいい」と訴えていた。渡海氏の25日の提案は、党執行部が集まった場で早速、賛成を取りつけようとしたものだった。
しかし、派閥 領袖 がそろう面々は無派閥である渡海氏の意欲について、「熱弁を振るっていたが、今回はリクルート事件とは違う」「大綱に書く内容のような抽象的な議論をしても仕方がない」――などと冷ややかな受け止めを周囲に示している。
渡海氏が、政治改革にこだわるのは、議論が盛んだった時代を経験しているからだ。86年衆院選で初当選し、同時期に起きたリクルート事件で政治不信が高まる事態を目の当たりにした。
その後、武村正義・元官房長官ら当時の自民新人議員が88年に発足させた「ユートピア政治研究会」に加わり、政治腐敗防止に向けた活動を始めた。93年には、改革の停滞に業を煮やして離党し、同研究会が母体となった「新党さきがけ」に参加した。
渡海氏は「あの時代を知る議員は少ない」と周辺に語り、ベテランとして改革議論に積極的に貢献したいとの自負をにじませている。同研究会に参加した自民の石破茂・元幹事長はテレビ番組で「渡海氏は国民に近い自民党を作ることに思いのある人だ。執行部の中で色んな議論を巻き起こす」と期待を寄せた。
もっとも、渡海氏については、「理念先行型で、今の執行部では浮いた存在になりかねない」(閣僚経験者)と懸念する向きもある。政治改革の議論では、政治的な勘や調整力を試されることになる。