冬の避難生活、災害関連死に注意 低体温症など懸念 能登半島地震

いまだ2万人以上が避難生活を余儀なくされている能登半島地震で、9日に初めて災害関連死が確認された。過去の災害では直接死を上回るケースもあり、その多くを高齢者が占める。厳寒期の避難生活では低体温症や生活不活発病などによる体調の悪化が懸念され、避難所の衛生環境の改善などが急務となる。
高齢者半数以上
災害関連死は、家屋倒壊や土砂災害などの直接的な原因ではなく、災害によるけがの悪化や避難生活の疲労やストレスなどによる疾患など間接的な要因で亡くなり、自治体が認定したケース。
平成28年の熊本地震では直接死50人に対し、関連死は226人と4倍以上に上り、9割以上の207人を60代以上が占めた。同23年の東日本大震災でも関連死3794人のうち、3358人(89%)が66歳以上の高齢者だった。
同16年の新潟県中越地震では、地震によるショック死や避難中の車内で疲労による心疾患、強いストレスによる脳内出血や呼吸不全、肺炎などで亡くなる高齢者が確認された。
トイレの衛生環境
能登半島地震で、石川県珠洲市の避難所で診察に当たった医師によると、特に懸念されるのが断水による健康被害だ。ある避難所では、3基ある仮設トイレのうち、1基は便器に排泄(はいせつ)物がたまったままで「使用禁止」になっていた。トイレが屋外にあるため、厳しい寒さを嫌がる高齢者らは避難所内で簡易トイレを利用していたという。
医師は感染症のリスクに加え、トイレ利用を控えるため、水分を取らずに脱水症状を引き起こす危険性を指摘。「避難所の運営者が衛生環境に関する十分な知識のある人ではなかった。アルコール消毒では不十分で、飲用水も手洗いに使うことが重要になる」と話す。
体を動かさない状態が続くと、筋力などが衰えて動けなくなる「生活不活発病」になる恐れがある。反射機能が低下し、唾液などをせきで出せずに誤嚥(ごえん)性肺炎を発症する危険性もある。唾液などに含まれる細菌が多いと発症リスクが高まるため、歯磨きやうがいなどで口腔(こうくう)内を清潔に保つことが大切になる。
車中泊も注意
一般社団法人「避難所・避難生活学会」によると、特に高齢者は体温を奪われやすいとし、低体温症を防ぐには、重ね着のほか、上着の中に新聞紙を詰めたり、身体を寄せ合ったりすることが有効だという。
車中泊には低体温症や一酸化炭素中毒、エコノミークラス症候群のリスクがあるため、特別な装備がなければ避難所に移動することが望ましい。大規模災害では避難生活の長期化が想定され、物理的な環境改善に限らず、被災者のストレス緩和も重要になってくる。
「健康チェック何より大事」
矢守克也・京都大防災研究所教授
被災地では今も余震が続いている。熊本地震でもそうだったが、重い物が落ちてこない車の中などで過ごす人が多く、エコノミー症候群など災害関連死を増やす要因になる。寒さも厳しい。トイレの回数を減らそうと、水分補給を控えることも良くない。
不調を感じなくても、医師や看護師による健康チェックを受けることが何より大事だ。各地から医療スタッフが向かっており、医療・介護サービスはある程度受けられる状況になるはずだ。
被災後数日は気を張ってやり過ごせても、心身の負担は蓄積される。発生直後だけでなく、それぞれの段階で災害関連死の危険性がある。家の片付けや生活の再建を急ぐあまり、体のチェックを後回しにする人が増えることを懸念している。精神的にもつらく過酷な状況下で、健康だと思っている人にもストレスから不調が起こり得る。
日本中が被災した災害ではない。故郷を離れることはつらいだろうが、可能なら数日間でも被災地以外に移るべきだ。ライフラインの復旧まで心身の調子を整えることを考えてほしい。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする