能登半島地震では、寸断された道路や大雪などが救援活動を阻む。自衛隊は輸送艦や大型ヘリを投入して物資を輸送し、各地の避難所に確実に届けようとしている。被災者の声を聞き取る「ご用聞き隊」も編成し、現地の要望にどう寄り添うか手探りの対応を続けている。(割田謙一郎、溝田拓士)
石川県珠洲市の野々江総合公園は9日朝、約10センチの雪に覆われていた。地面が露出した場所には亀裂が見える。午前9時40分頃、陸自の大型ヘリ「CH47」が公園内に着陸した。
機内には、操縦席のすぐ後ろまで水や食料を入れた数百個の段ボール箱が詰め込まれていた。能登半島沖約30キロに浮かぶ海自輸送艦「おおすみ」から運んできたものだ。地上で待ち構えていた十数人の陸自隊員が2台の車両に積み込んでいく。20分で作業を終えると、ヘリは再び飛び立った。
現場で活動する陸自の木村広和1尉は「道路状況は依然として悪い。海と空も含め物資の輸送に全力を挙げている」と語った。
離陸から約1時間後、ヘリは日本海上を進むおおすみに着艦。強い海風が吹く中、甲板に待機した隊員約20人が段ボール箱を載せた荷台を機体に寄せ、手際よく運び込んでいく。機内は約10分間で段ボール箱で埋まった。同機は再び珠洲市に向けて離陸した。
石川県知事からの災害派遣の要請を受け、自衛隊は1日から活動を始めた。6日以降、おおすみを海上拠点として活用。9日は珠洲市まで3回、輪島市まで2回それぞれヘリが往復し、水や食料を輸送した。
両市を含む能登半島北部では、南部から延びる道路の多くが寸断された。がれきの撤去が進み、通行できるようになっても、渋滞や片側通行の制限でスムーズには走行できない。半島北端の海沿いの国道は今も通行止めだ。
「物資は日々消費されるから、途切れることなく送る必要がある。空輸は非常に有効な手段だ」。自衛隊幹部はそう話す。
CH47が運んだ物資は、いったん野々江総合公園に隣接する珠洲市立健民体育館に集積される。陸送されてきた他の物資と合わせて管理され、各地の避難所に配送されていく流れだ。
約1キロ離れた市立飯田小学校は、約270人が身を寄せる避難所になっている。10日午前、右肩に「ニーズ把握隊」の印を付けた自衛隊員3人が避難者に話しかけていた。
「何かお困りのことはありますか?」
自衛隊は今回、被災者の要望を細かく聞き取る400人態勢の部隊を急きょ編成した。
「アルコール消毒液が全くない」「レトルトご飯のパックは温める道具がないから余っている」。隊員らは住民の要望を手帳に書き取っていった。
国は能登半島地震でも、被災自治体の要請を待たずに食料や毛布などの物資を緊急輸送する「プッシュ型支援」を進めている。命をつなぐ効果が高い一方で、被災地域や避難所ごとの需要とは一致しないこともある。自衛隊は初めて、住民の要望を一元的に集約する仕組みを取り入れた。
飯田小には数日前、トイレ用の掃除道具が届いた。前日に避難者の女性(46)が隊員にお願いしたものだ。同小ではトイレが汚れ、衛生環境が悪化していくことが悩みだった。女性は「あまりの汚さに怖がって泣き出す女児もいた。ありがたい」と話した。
一方で同じ避難所に身を寄せるNPO職員の女性(69)は「布団で寝ると背中が痛いと言っている高齢者も多い。(段ボール)ベッドが足りていない」と訴える。
防衛省幹部は「時間の経過とともに支援内容が広がり、ニーズも多岐にわたってきた。孤立集落の方々も含め、多くの被災者の声を拾うにはかなり時間がかかる」と語った。